Greg Jasperse (グレッグ・ジャスパース) / 混声合唱とピアノのための組曲「桜の歌」(五十嵐琴未 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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とうとう今年も11月、日本はめっきり寒くなっているのではないでしょうか。White Christmasの歌詞からもわかるように全く雪とは無縁のロサンゼルスですが、朝晩は寒くなってきてきました。

ハロウィンも終わり、Holiday Season前の少し落ち着いた時期ですのでそれに似合った作品を紹介したいと思います。ミュージカル、スピリチュアルズ、映画音楽ときたのにまだ紹介していないアメリカ音楽。。。。。。そうジャズです。
 
合唱でジャズといったらBob Chilcottのジャズミサなどを思い浮かべるかたも多いかと思います。アメリカではジャズ要素がふんだんに使われている合唱曲はもちろんですが、高校・大学のJazz Choir / Jazz Vocal Ensembleで使われるジャズ曲が数多くあります。New York VoicesやManhattan Transferをイメージとわかりやすいですね。
 
今回はこのジャンルからGreg Jasperseを紹介します。
 
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Greg Jasperse (グレッグ・ジャスパース)はウェスタン・ミシガン大学でジャズを教えているボーカリスト、作曲・編曲者、ピアニストです。New York Voicesのメンバーが参加できないツアーに代理を務めたり、彼ら主催のサマーキャンプをプロデュースするなど指導者・パフォーマーとして多岐に亘り活躍されています。ジャズ作曲・編曲者では珍しくジャズコーラスではない合唱団が歌うような編曲も多数書いています。
 
私は知りませんでしたがJazz Vocalist Society of Japanという団体に2021年に日本へ招聘されていたようです。

それでは彼の作品3曲を紹介したいと思います。

“Voice Dance”
彼の一番有名な作品であるこの曲はアカペラですが歌詞がなく、すべてスキャットで使用する子音と母音だけが使われています。ポップスやジャズでよく使われるDa ba doo ba daは適当に歌われがちですが、しっかりと揃えることの重要性がしっかりと理解でき、なおかつ音遊びが楽しい曲です。
 
高校生の少人数アンサンブルで演奏されることもあります。

Albany High School: Vocal Soul
https://www.youtube.com/watch?v=XPcOXDS0eug

“Sweet Georgia Brown”
ザ・ジャズコーラスといった編曲です。コーラスパートはユニゾンからジャズコーラスとしては比較的簡単なハーモニーを使い経験の浅い学生たちでも歌えるようになっており、ソロを何度かフィーチャーするため即興の練習にもなります
 
曲自体はジャズスタンダードですので、客ウケもよいでしょうね。
 
本人の指揮・指導の高校生アンサンブル
Sweet Georgia Brown
https://www.youtube.com/watch?v=jE4Jr_qcZ20

“Abide with Me”
有名な讃美歌を題材としてジャズ音楽家が作ったしっかりとした合唱編曲です。ジャズコードはふんだんにつかわれていますが、合唱の玄人志向のアレンジになっています。彼の音楽性が多岐にわたっている証拠のような素晴らしい編曲です。
 
The Nathaniel Dett Chorale – Abide with Me
https://www.youtube.com/watch?v=Tzg7m_EckFg

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楽譜の注文はパナムジカにお問い合わせください。
(市川恭道)

市川恭道(いちかわ・やすみち)

【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ・やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。

 

日本の合唱作品紹介

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混声合唱とピアノのための組曲「桜の歌」

●混声合唱とピアノのための組曲「桜の歌」
作曲:五十嵐琴未
作詩:与謝野晶子
出版社:カワイ出版
価格:1,870円(税込)
声部:SATB div.
伴奏:ピアノ伴奏
言語:日本語
時間:14分
判型:A4判/44頁
ISBN:978-4-7609-2058-7
収録曲:
桜の歌/初夏/雪

今回は若手作曲家、五十嵐琴未さんの新作『混声合唱とピアノのための組曲 桜の歌』をご紹介します。この作品は、今年8月13日に札幌コンサートホールKitara小ホールで行われた《The Premiere Vo1.5 北の大地のオール新作初演コンサート!》にて、北田悠馬さん指揮、石井ルカさんピアノ、そして合唱のリトルスピリッツの皆さんによって初演されました。

「The Premiere」は2009年にスタートしたカワイ出版の企画で、若い作曲家をフィーチャーした総合的な合唱イベントです。今年はその5回目となりました。過去にここで誕生した作品についてはこちらをご参照ください。http://www.editionkawai.jp/blog/2022/07/08/premiere5/

『混声合唱とピアノのための組曲 桜の歌』のテキストには日本のロマン主義文学を代表する歌人、与謝野晶子の3つの詩「桜の歌」「初夏」「雪」が選ばれています。それぞれの季節の風景、そしてそこに反映された与謝野晶子の生々しい感性を鮮やかな色彩感で絵画に仕立て上げたような作品です。混声四部を基本とし、ときにdiv.しながら色合いを加えています。

1.桜の歌
桜をこよなく愛した与謝野晶子。「花の中なる京おんな、薄花さくら眺むれば、女ごころに晴れがまし」と始まるア・カペラ部分を経て初めてピアノが入る瞬間、桜の花びらが風に舞い踊ります。一面に華やかなピンクや艶やかな赤色のグラデーションが広がり、その色彩や香りが、滑らかで美しい転調とともに繰り広げられます。

2.初夏(はつなつ)
「人生の初夏」として捉えられたこの詩。初夏は「美少年」として擬人化されて描かれています。白、緑、青。夏の輝かしい光の中で初々しい恋心も歌われています。爽やかな夏の風の中にもどこか神秘的な世界に引き込まれていきます。曲中に2回現れるア・カペラでのユニゾンが非常に印象的です。

3.雪
先の二曲を「動」とするとこちらは「静」。薄雪、錫箔、静けさ。白からグレーのグラデーション。雪が静かに降り積もる黄昏の中に歌われる寂しさ。その景色と心情を引き立てるピアノのソロ部分は必聴です。

全体にピアノパートが流麗に言葉と絡み合い、詩の世界と一体感を作り上げている一方、随所に現れるア・カペラ部分の雰囲気が一層際立ち、その対比が魅力的です。作品の中には五十嵐さんの師匠である鈴木輝昭さんの影響を少なからず感じさせます。

これまでの作品の中では、2019 年度朝日作曲賞公募にて混声合唱とピアノのための組曲「よひやみ」 が佳作入選されています。また、2020年 にはサントリーホールにて「《櫻暁》for Japan Philharmonic Orchestra」が山田和樹氏指揮日本フィルハーモニー交響楽 団により委嘱初演されるなど、精力的に創作活動を展開されています。
これからの作品にも注目していきたい作曲家のお一人です。(田中エミ)

田中エミ (たなか えみ)

【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。ゼミでは合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。