Vasaras vidus dziesmiņa 真夏の歌(Pēteris Plakidis 作曲)/ 同声または混声合唱とピアノのための《対話》(土田豊貴 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Vasaras vidus dziesmiņa(真夏の歌)

● Vasaras vidus dziesmiņa(真夏の歌)
作曲:Pēteris Plakidis (ペーテリス・プラキディス)
声部:SSSSAATTBB
伴奏:ア・カペラ
言語:ラトビア語
時間:4分00秒

 陽が最も長い夏至がやってきました。暗い夜に覆われる冬が続い北国の人々にとって、特別な日です。ラトビアでは6月23日、24日の夏至祭をJāņi(ヤーニ)、Līgo(リーゴァ)と言い、人々は毎年お祝いします。草原や森で摘んできたハーブや花で花冠を作ったり、若いカップルたちはシダの花を探しに森の中へ行ったり、焚き火を焚いて火の周りで歌ったり踊ったりしながら、一年で最も短い夜が過ぎ去るのを待ちます。
 今回は、ア・カペラ混声合唱で、この夏至祭の白熱した情景を描いた作品Vasaras vidus dziesmiņa(真夏の歌)を紹介します。この作品は、20世紀後半から21世紀頭、室内楽作品の作曲始め、自身も室内楽ピアノ奏者としても活躍をしていたペーテリス・プラキディスによって作曲されています。合唱作品は、自身はさほど好んで作曲したがってはいなかった、という逸話が残っているものの、故イマンツ・コカルス指揮の頃のリガ室内合唱団アヴェ・ソル委嘱をはじめとし、20世紀後期のラトビアの合唱音楽において重要な作品を数々残しています。本作品は、ラトビアの夏至祭の神秘的な情景と、欲望をラトビアの民族的な描写を交えながら詩人のオイヤールス・ヴァーツィエティスによって描かれた詩が用いられ、プラキディスはその世界を力強く、ユーモラスに表現します。
 作品は、夏至祭の始まりを知らせるファンファーレのように、女声とテノールによるユニゾンの旋律で高らかに始まります。「湖は活気を帯び、川は流れ始める、全ての土地は燃えているのだ!」という歌詞に沿って、自然の描写が言葉と共に女声のカノンによって描かれ、ポリフォニーを通して燃える大地へと向かってクラスターの和音へと発展をします。「魔女が空にオーロラを放つ」と表現される神秘的な夜空は、「Burrrrrr」とラトビア語の呪文という単語「Buramvārdi」から取られており、巻き舌を交えた音でオクターブでグリッサンド上昇したり下降することで描写されます。
 中間部では、ラトビアの民謡「Līgo(リーゴァ)」のモチーフが用いられ、8分の6拍子でバスの「um pa pa」という伴奏の元で踊りが描写され、その中でテノールがConumore(ユーモアを持って)、そしてファルセットで「真っ白なシダの花が咲いている」とシアター的に歌います。鼻の下が伸びたようなテノールたちにピシャリとアルトが「余計なおしゃべりはやめなさい」と語りセリフのように一括をし、ロックを思わせるバスによる伴奏から、作品は再現部、白熱する自然描写へと返っていきます。驚くことに、この作品、2003年の歌の祭典のガラコンサートで、約1万人を超える大規模な合唱団でも歌われており、間近の歌の祭典では2023年でも演奏されました。様々な能力を要求される作品ではありますが、民族音楽、ロックミュージックの要素を大胆に取り入れられ、豊かな表現を通してラトビアの伝統行事を存分に堪能できるかのような作品です。
 さて、作品にも現れる植物のシダは、実際には、花を咲かせません。「シダの花」は、バルト諸国に古くから伝わる幻の花で、この夏至祭の時にだけ咲くと言われており、それを見つけると幸運に恵まれる、またはカップルで探しに行くことに関する逸話がいくつかあります。この作品に取り組むことで、音楽と共に、このようなラトビアの夏至祭にまつわる様々なことを知れる面白い機会になるかもしれません。(山﨑志野)

【楽譜】※楽譜は、パナムジカでお取り寄せ可能です。
https://www.musicabaltica.com/775.html

山﨑 志野 (やまさき しの)

【筆者プロフィール】
山﨑 志野 (やまさき しの)
島根大学教育学部音楽教育専攻卒業後、2017年よりラトビアのヤーゼプス・ヴィートルス・ラトビア音楽院合唱指揮科で学び、学士課程および修士課程合唱指揮科を修了。2022年にはストックホルム王立音楽大学の修士課程合唱指揮科で学ぶ。2023年9月よりラトビア放送合唱団のアルト、またラトビア大学混声合唱団Dziesmuvaraの指揮者として活動する。第2回国際合唱指揮者コンクールAEGIS CARMINIS(スロベニア)では総合第2位、第8回若い指揮者のための合唱指揮コンクールでは総合2位およびオーディエンス賞を受賞。合唱指揮を松原千振、フリェデリック・マルンベリ、アンドリス・ヴェイスマニス各氏に師事。

 

日本の合唱作品紹介

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同声または混声合唱とピアノのための《対話》

●同声または混声合唱とピアノのための《対話》
作曲:土田豊貴
作詩:和合亮一
出版社:ブレーンミュージック
価格:990円(税込)
声部:SA(TB)/SATB
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約3分
判型:A4判・8頁
ISBN:978-4-86288-948-5

 都道府県によってズレもありますが、先月6月に合唱祭が行なわれたという地域は多いのではないでしょうか。そしてこれもまた地域によりますが、合唱祭では合同演奏で歌う機会が設けられている場合があります。筆者が出演した大阪府合唱祭では石若雅弥作曲《大阪府合唱祭のうた》や石若雅弥・北川昇編曲《みんなで歌う唱歌集 2013》を歌っていますし、東京都合唱祭ではカノンの名曲《Dona Nobis Pacem》を歌っていると聞きます。また近年は連盟創立60年記念やコロナで中断を挟みつつも合唱祭60年記念にあたる年の連盟も多く、さまざまな曲が各地の合唱祭で誕生しています。
 そうした合唱祭の合同で新たな曲が初演されました。それが今回ご紹介する《対話》です。和歌山県合唱連盟の「みんなの愛唱歌制作プロジェクト」によるもので、その狙いをすこし長くなりますが前書きから引用します。「人数や声部を問わず気軽に歌える愛唱歌をつくりたい。そして、それぞれの『合唱』を持ち寄って集まれば大合唱できる、合唱団の垣根を超えた共通のレパートリーをつくりたい。」とのことです。
 詩は和合亮一の詩集『十万光年の詩』から。和歌山県みなべ町の写真とともに掲載されているのがこの『対話』という詩だそうなので、きちんとご当地要素もあるんですね。
 作曲は土田豊貴。2020-21年のNコン高校課題曲《彼方のノック》やコンクール自由曲としての委嘱のイメージが強い作曲家ですが、「現在の『流行り』を知り尽くしているからこそ書いていただける、ある種シンプルな世界が見てみたい(前書き)」との想いで作曲家を選出されたそうです。
 ちなみにこの作詩作曲コンビによる同じ詩集から生まれた作品、混声合唱とピアノのための《十万光年の詩》もカワイ出版から今月に発売されます。
 副題が示す通り、同声二部版と混声四部版が2段並んで掲載されています。シンプルな編成でも歌えるように作曲されており、divisionは使用されておらず同声版にオプションとして小音符があるのみです。
 構成もシンプルで、同じモチーフから始まるシンプルなメロディーが二度繰り返されたあと、フォルテで歌い上げる部分、そしてフェルマータで沈黙を表す部分を経て、主題に回帰します。全編にわたってホモフォニックに進行するのも良いですね。
 初演は、第58回和歌山県合唱祭において、阪本健悟和歌山県合唱連盟理事長の指揮と作曲家でもある西下航平同連盟外部理事のピアノ、公募による合唱団による演奏で行なわれました。初演の模様がYouTubeでご覧いただけます。
https://youtu.be/uQlg0R0vPe8?si=VSt8RmecJRoV3p6e
 新しい愛唱歌の輪を日本で拡げてみませんか?(坂井威文)

坂井 威文(さかい たかふみ)

【筆者プロフィール】
坂井 威文(さかい たかふみ)
 1988年、大阪府堺市に生まれる。近畿大学文化会グリークラブで3年間学生指揮者を務める。大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻卒業、同大学院音楽学研究室修了。大学卒業時に優秀賞受賞。大阪などで13団体の合唱団の指揮・指導を行なっている。大阪府合唱連盟理事・関西合唱連盟主事。宝塚国際室内合唱コンクール委員会理事。第13回JCAユースクワイアアシスタントコンダクター。
 ウェブ上では多田武彦、信長貴富、鈴木輝昭、千原英喜、石若雅弥の各氏の作品を一覧化するWikiページの作成・管理を行なっている。