Zehn Rubaijat des Omar Khajjam​​ (chajjam) オマル・ハイヤームの10のルバイヤート(Friedrich Cerha 作曲)/ 三つの混声合唱曲「春の扉」(田中達也 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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●Zehn Rubaijat des Omar Khajjam​​ (chajjam)(オマル・ハイヤームの10のルバイヤート)
作曲:Friedrich Cerha (フリードリヒ・ツェルハ)
声部:SATB 他
伴奏:ア・カペラ
言語:ドイツ語

Friedrich Cerha(フリードリヒ・ツェルハ)という作曲家をご存知でしょうか?
ツェルハは1926年にウィーンで生まれ、2023年に96歳でその生涯を閉じたオーストリアの作曲家です。新ウィーン楽派の作曲家ら(シェーンベルク、ベルク、ヴェーベルン)から強い影響を受けており、また現在活躍中のオーストリアの作曲家の中にはツェルハに支持をした者も多く(G.F.ハース、C.オッフェンバウアー他)、20世紀から21世紀にかけてのオーストリアの音楽史において橋渡しの役割を果たした最重要作曲家の1人と言われています。
今回はそんなツェルハの合唱作品の中から「オマル・ハイヤームの10のルバイヤート」という作品をご紹介します。聞き慣れないカタカナが並んでいると感じる方もいらっしゃると思いますが、オマル・ハイヤーム(またはウマル・ハイヤーム)は、11世紀頃にペルシャ(現在のイラン)で活躍した学者・詩人であり、ペルシャ語で書かれた約600とも言われるルバイヤート(ペルシャ文学で流行したスタイルの四行詩)が遺され、多くの言語に翻訳されて親しまれています。ハイヤームのルバイヤートは世俗的な雰囲気のものが多いのですが、特に「Wein(ワイン)」という言葉が頻繁に使われており、これは当時のイスラムの禁酒に対する批判と読み取ることもでき、体制や教義に対する懐疑や抵抗といった政治的な意味合いを持っていると考えられています。
四行から成るルバイヤートの簡潔さと、1,2,4行目で韻を踏むスタイルが、音楽との相性が良いことだけでなく、その内容も含めてツェルハはこの詩に強く惹かれたようで、ドイツ語に訳されたルバイヤートを合唱作品や声楽作品として多数作曲しています。はじめに1950年代に作曲された10曲が「オマル・ハイヤームの10のルバイヤート」としてまとめられ初演されており、さらに1988年には、1950年以前と1960年以降に作曲された作品をまとめた第二の「オマル・ハイヤームの10のルバイヤート」が出版され、当時のオーストリア放送合唱団とその指揮者であったエルヴィン・オルトナーに献呈されています。
上記の20曲はそれぞれ30秒から3分程度の非常に短い作品で、自由な調性(あるいは自由な無調性とも言えるが十二音技法ではない)で書かれています。アカペラの混声4部を基本としつつ、女声のみで演奏される曲や、最大で8声に分かれる曲も含まれています。上記でも述べたようにこの20曲はもともと組曲として作曲されたものではありませんが、1曲目と10曲目にゆったりしたテンポの内省的な曲が配置されるなど、曲集としてまとまりのある構成になっています。
以下のCerha Onlineというページに詩の内容も含めた具体的な解説が掲載されており、また第1巻の10曲を聴くことができますので、ご興味のわいた方はぜひ覗いてみてください。(言語は英語とドイツ語のみ)
ドイツ語の現代作品ということで少し手が出しにくい領域かもしれませんが、まずはその響きを楽しんでいただければ嬉しいです。(谷郁)

https://cerha-online.com/en/home-english/an-artists-life/the-composer/catalog-of-works-theme-oriented/the-closeness-of-distance/zehn-rubajjat-des-omar-chajjam/

谷 郁 (たに かおる)

【筆者プロフィール】
谷 郁 (たに かおる)
国立音楽大学声楽科卒業及びグラーツ国立音楽大学大学院合唱指揮科修了。これまでに合唱指揮を花井哲郎、エルヴィン・オルトナー、ヨハネス・プリンツの各氏に師事。
Tokyo Cantatにおける第5回及び第6回若い指揮者のための合唱指揮コンクールいずれも第2位。国際合唱指揮コンクールTowards Polyphony(ポーランド)で高い評価を受け、NFM Choirにより客演指揮に招請された。
vocalconsort initium、Hugo Distler Vokalensemble、Tokyo Bay Youth Choir指揮者。他指導合唱団多数。

 

日本の合唱作品紹介

指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

三つの混声合唱曲「春の扉」

●三つの混声合唱曲「春の扉」
作曲:田中達也

作詩:谷川俊太郎
出版社:カワイ出版
定価:1,760円 (税込)
声部:SATB
伴奏:ピアノ伴奏/無伴奏
判型:A4/40頁
ISBN:978-4-7609-4851-2

今回ご紹介する『春の扉』はさまざまな機会で初演された田中達也さんの未出版混声合唱作品をまとめて曲集とした1冊です。無伴奏でひろく愛されてきた「レモンイエローの夏」にはピアノが付され、ピアノ付き同声2部をもとに混声4部に編曲されて歌われていた「夕焼けパレード」は無伴奏版になりました。「春の扉」は後半が2群合唱の形で描かれていたものが、出版に合わせて1群のスタイルに改訂されています。
さながら”田中達也混声合唱セレクション”とも言うべきこの1冊は、原曲を知るファンにもそうでない人にも、広く歌われる愛唱曲集になっていくことでしょう。

1.レモンイエローの夏
松下耕さんの「はじめに……」を東京都合唱祭で歌おうとTwitter(当時)で呼びかけて始まった合唱団わをん。その際のカップリングとして、良いバランスになるような曲を書いて、とお願いして出来上がった無伴奏混声4部がオリジナルです。80年代アイドルポップのようなノリの良い爽やかさがありながら、どこかに青春の甘酸っぱさを感じる曲で、今や田中達也さんを代表する曲の一つと言っていいほど、日本各地で演奏されています。
これまでにピアノ付き女声、無伴奏女声、二重唱など様々なバージョンが作られていましたが、今回待望のピアノ付き混声版が初演され、出版の運びとなりました。
この版では副題に“混声合唱〔または重唱〕とピアノのための”と書かれている通り、div.がなく、最小4人で演奏可能、とのこと。大小様々な合唱団によって今後も愛唱される曲となりそうです。

2.夕焼けパレード
カワイ出版が"合唱をはじめたばかりの子どもも楽しく歌える易しいシリーズ"として企画した「こどもコーラス・コレクション‐ジュニア‐」の第2弾として2021年に書かれた曲で、オリジナルは同声2部版でした。その後すぐに、田中達也さんが所属する合唱団ひぐらしのために混声4部に編曲されました。この二つの編成はそれぞれピースで販売されていますが、二つを同時に演奏することが可能となっています。
さらにこれを無伴奏混声4部に編曲したものが今回の楽譜に収録されています。アンサンブルコンテストでの初演であったこともあり、こちらもdiv.なしの4声で編曲されています。

3.春の扉

「レモンイエローの夏」が良い曲だったので、これを曲集にするプロジェクトとして合唱団わをんの初期の活動指針が固まりました。その区切りとして無伴奏混声合唱曲集『レモンイエローの夏』を全曲初演をしようと、わをんと兼団者のいたもんじゃ、ちーむ♪わたげとに声をかけて実施したジョイントコンサートのアンコール曲として「春の扉」を初演しました。100名を超える大人数のために書いたこともあり、前述のように一部2群合唱になっていましたが、今回1群に改められたことで、多くの団体にとっても演奏しやすい編成へと生まれ変わりました。
「レモンイエローの夏」の作詩者であるみなづきみのりさんが書き下ろしてくださったテキストには3団体の名前があしらわれていますが、ごくさりげないので違和感なく演奏していただけると思います。
前向きなエネルギーに溢れているので、演奏会の締めくくりやオープニングなどでぜひ歌っていただきたい一曲です。(三好草平)

三好草平(みよし そうへい)

【筆者プロフィール】
三好草平(みよし そうへい)
1979年埼玉県生まれ。大学卒業に合わせ合唱団を立ち上げ指揮活動を開始。現在、東京・埼玉・富山で十数団体の指揮を務めている。
同世代の作曲家への委嘱や演奏会のプロデュース、ステージマネージャー、司会など合唱に関わる様々な活動を行っているほか、合唱アニメ「TARI TARI」(2012)、アニメ「ヴァチカン奇跡調査官」(2017)、アニメ映画「リズと青い鳥」(2018)、映画「コーヒーが冷めないうちに」(2018)、TVドラマ「トップナイフ」(2020)、TVドラマ「ドクターホワイト」(2022)、アニメ映画「アリスとテレスのまぼろし工場」など多数の作品の音楽制作に協力している。
東京都合唱連盟事務局長。日本合唱指揮者協会会員。アニソン合唱プロジェクト「ChoieL」監修。小さな夜の音楽会 主宰。