Michael John Trottaの合唱作品 / 男声合唱とピアノのための《あらゆる日も夜も》(根岸宏輔 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Michael John Trottaの合唱作品

Michael John Trottaの合唱作品

マイケル・ジョン・トロッタは指揮者・作曲家としての経験を活かし、豊かなハーモニーと叙情的な旋律、深い感情表現を組み合わせた作品を生み出しています。その音楽は伝統と革新の架け橋となり、演奏者にも聴衆にも強く響いています。
 彼は1978年にアメリカ・ニュージャージー州で生まれ、幼少期から音楽に親しんできました。ローワン大学で音楽教育の学士号を取得し、その後ルイジアナ州立大学で合唱指揮の博士号を取得しました。大学卒業後は、オクラホマ州立大学やヴァージニア・ウェズリアン大学などで教鞭をとり、教育者としても活躍しました。2015年にはニューヨークに拠点を移し、作曲活動に専念するようになりました。
彼の数多くの作品の中でも、特に人気が高く広く演奏されている3つの楽曲を紹介します。

1.《Three American Folk Songs》(アメリカのフォークソング集)
「Cindy」
明るく軽快なリズムが特徴の楽曲で、恋愛をテーマにした陽気なフォークソングです。トロッタの編曲では、ピアノとヴァイオリンの伴奏が加わり、活気あふれる合唱作品に仕上がっています。
「The Water Is Wide」
美しく叙情的な旋律を持つバラードで、愛と別れをテーマにした伝統的なフォークソングです。豊かなハーモニーが際立ち、合唱団が感情を込めて歌うことができる作品となっています。
「Old Dan Tucker」
ユーモラスでエネルギッシュな楽曲で、アメリカの民間伝承に登場するキャラクター「ダン・タッカー」の愉快な冒険を描いています。手拍子や足踏みなどのリズム要素が加わり、演奏者と聴衆が楽しめる作品になっています。

参考動画
“Three American Folk Songs – Michael John Trotta”
https://youtu.be/FiadvLJ3pM4?si=86EuyfIBO90mFDbO

2.《Gloria》(グロリア)
壮大で力強い作品であり、カーネギーホールをはじめとする著名な会場で演奏されてきました。華やかな旋律とリズミカルな躍動感が特徴で、祝祭感のある合唱作品を求める合唱団にとって人気の高い一曲です。

参考動画
“Gloria: 1. Gloria in excelsis Deo“
https://youtu.be/cQDEJF7m1e0?si=O7xCUhbyNK8oIfXl

“Gloria: 2. Domine Deus“
https://youtu.be/kXE-zDkLeVk?si=bjX_T7u0gYxBwBaO

“Gloria: 3. Quoniam tu solus sanctus“
https://youtu.be/gBvSLd-MeNA?si=mVDvCWGs3yYekesA

3.《For a Breath of Ecstasy》(歓喜の息吹のために)
アメリカの詩人サラ・ティーズデールの詩をもとに作曲した、7つの楽章からなる合唱作品です。合唱とオーボエ、弦楽器の繊細な絡み合いによって、詩の持つ情感を最大限に引き出しています。ティーズデールの詩の世界観を音楽で表現することで、聴衆に深い感動を与える作品となっています。

 楽章構成
 Wealth Enough for Me – 静かで穏やかな旋律が特徴の楽章。
 Peace Flows Into Me – 内面的な平和を表現した美しいハーモニー。
 Who Gave My Soul to Me – 深い感情を込めた旋律が印象的。
 For You I Am Still – 愛と憧れをテーマにした楽章。
 Spend All You Have on Loveliness – 「美しさにすべてを捧げよ」という詩のメッセージを音楽で表現。
 And I For You – ロマンティックな雰囲気を持つ楽章。
 Let Me Love – 最終楽章で、作品全体のテーマを締めくくる壮大なフィナーレ。

参考動画(下記のリンクからYouTubeアルバムに飛べます)
“Trotta: For a Breath of Ecstasy”
https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lW-5ptQPCzty5LUuAPpdSZCPboDakuoAk&si=eb2MnLPUc5oi08SS
 
彼のウェブサイトは下記のとおり
https://www.mjtrotta.com/

楽譜購入はパナムジカまでお問合せください。

市川恭道(いちかわ やすみち)

【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。

 

日本の合唱作品紹介

指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

男声合唱とピアノのための《あらゆる日も夜も》

●男声合唱とピアノのための《あらゆる日も夜も》
作曲:根岸宏輔
作詩:川井麻希
出版社:カワイ出版
価格:1,870円(税込)
声部:TTBB
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約16分
判型:A4判・48頁
ISBN:978-4-7609-4345-6

こんにちは、佐藤拓です。
このコラムで何度か紹介している若手作曲家の根岸宏輔さんですが、ついに男声合唱曲が出版されました!男声合唱とピアノのための「あらゆる日も夜も」は、2024年6月に合唱団風流の委嘱によって書かれ、同合唱団の第1回演奏会にて全曲初演されました(指揮:清水昭、ピアノ:井川弘毅)。合唱団風流は早稲田大学コール・フリューゲルのOBを中心とした団体で、これまでにも根岸さんに男声合唱の単曲を委嘱、初演してきましたが、満を持して組曲が誕生したことになります。
詩は神奈川県で教員をしながら詩作をされ、日本詩人クラブ新人賞も受賞した川井麻希さんによる三篇。タイトルと同名の詩集から取られています。現実を透過して世界の、あるいは自分自身の奥深い層を覗き込むような詩は、実に繊細で色彩にあふれています。根岸さんはセンシティブな合唱の響きと雄弁なピアノのパッセージによって、水彩画のようなソノリティを発現させています。

1,青
冒頭に現れるピアノのモチーフは揺蕩う波のごとく、3曲目へと繋がる布石となります。3/4拍子で淡々と語れる独白に続いて、6/8拍子になってからはこの世界にあることの焦り、もどかしさ、疑問が次々と押し寄せます。渦を巻くように感情の昂ぶりを見せると、再び3/4拍子に戻って空の青さの中に淡く消え入ります。密集配置の和音が大半を占めており、一抹のわびしさと儚さを湛えています。

2,手
夜、目を閉じると、「やわらかく温かい手のひら」が背中を撫で、その手にほどかれて眠りに落ちる…詩人が子育て中に感じた孤独と、その孤独すらも包含する夜そのものを描いた一篇。アカペラの穏やかな導入にはじまり、柔らかく、まどろむようなリズムとハーモニーによって徐々に眠りへと落ちてゆく。終始、優しく愛でるような大いなるものの眼差しを感じさせます。

3,おとのなみ
楽譜に記された音符たちを雨粒ととらえ、一粒の雨が集まって海の波となる様を描いており、音楽もまさにそのように音画のように描写されています。雨を示すように合唱もピアノも十六分音符が多用され、リズムの変化に富んでいるのが全2楽章との違いでしょう。中間部にあるB.O.のポリフォニーは、音符の雨が天に向かって昇っていくような音響効果を生んでいます。一曲目冒頭で示された波のモチーフはこの曲全体を通して巨大な波へとうねり、最後には遠くへズームアウトするように幕を閉じます。

全曲を通して「透き通った」という形容がぴったりハマる、実に新鮮な響きの男声合唱曲です。力強さや豪放さだけでなく、こういった繊細な美しさをハーモニーで表現できることも男声の魅力の一つですね。
詳細はまだわかりませんが、来年には合唱団WAKAGE NO ITARIの演奏会でも根岸さんの組曲の委嘱初演が決まっているようです。次はどんな顔を見せてくれるのか、楽しみに待つことにしましょう!

佐藤 拓(さとう たく)

【筆者プロフィール】
佐藤 拓(さとう たく)
岩手県出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中はグリークラブ学生指揮者を務める。卒業後イタリアに渡りMaria G.Munari女史のもとで声楽を学ぶ。
アンサンブル歌手、合唱指揮者として活動しながら、日本や世界の民謡・民俗歌唱の実践と研究にも取り組んでいる。近年はボイストレーナーとして、自身の考案した「十種発声」を用いた独自の発声指導を行っている。Vocal ensemble 歌譜喜、Salicus Kammerchor、vocalconsort initium等のメンバー。東京稲門グリークラブ、合唱団ガイスマ等の指揮者。常民一座ビッキンダーズ座長、特殊発声合唱団コエダイr.合唱団(Tenores de Tokyo)トレーナー。
(公式ウェブサイトhttps://contakus.com/