アメリカの合唱曲 The World Beloved: A Bluegrass Mass / 女声合唱のための「今日をきらめく」(大熊崇子 作曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
--------------------------------

●The World Belove:A Bluegrass Mass
アメリカ特有の音楽といえば黒人霊歌やジャズを思い浮かべます。今回のアメリカ合唱曲紹介では、BluegrassをミサのセッティングにしたCarol Barnett氏のThe World Beloved: A Bluegrass Massを紹介したいと思います。
Carol Barnett氏はアイオワ州生まれ、ミネソタ大学でArgento氏の元で作曲を勉強しました。Master’s Degree(修士)取得後はDale Warland Singersの専属作曲家(1992)になる、ミネソタオーケストラ・ハーバードグリー・ウェストミンスター聖歌隊に委嘱作品を提供するなど活躍は多岐にわたります。
The World Belove:A Bluegrass Massは2007年にBarnett氏とLibrettist Marisha Chamberlinによって書かれVocalEssenceとMonroe Crossing(Bluegrass Band)によって初演されました。合計12曲でなるMassですが定型ミサとはかなり風貌がかわっています。定型ミサの題名がついているものが5曲ありますが、詞は定型ミサのものに影響をうけたChamberlin氏のオリジナルです。(ネットにあったこのリンクで歌詞がよめます)ヨハネの書4章7-21にある”In this is love, not that we loved God, but that He loved us…”がはじめに引用されていることをはじめ全体を通して「神様が私たちを愛してくださっている」ということに重きが置かれています。
https://www.ascboston.org/downloads/publications/oos/Bluegrass%20Notes%20and%20Lyrics.pdf
- Ballad: Refrain
- Kyrie
- Ballad: First Verse
- IVGloria
- Ballad: Second Verse and Refrain
- Credo
- Sanctus
- Ballad: Third and Fourth Verses
- Agnus Dei
- Art Thou Weary (Instrumental)
- Benediction
- Conclusion
もちろんBluegrass Massですので楽器構成はバンジョー、マンドリン、フィドルなどによりますが、華やかなものからゆったりとした音楽、Bluegrassと聞いてパッと想像する音とは違うものが楽しめます。Bluegrassはスコットランド移民が多い地域で生まれていますのでアイリッシュ・スコティッシュ音楽の音階が使われており日本人の耳にも優しいものになっています。(市川恭道)
The World Beloved: A Bluegrass Mass
https://www.youtube.com/watch?v=Ytvtk78wOXg&list=PLnBs1ruDE0EDWbpe_qW84QlZuNBm6hqe4&index=1
譜面の購入はパナムジカまでお問合せください。

【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

●女声合唱のための「今日をきらめく」
作曲:大熊崇子
作詩:谷川俊太郎
出版社:カワイ出版
価格:1,760 円(税込)
声部:SSA.
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約16分
判型:A4判・40頁
ISBN:978-4-7609-4407-1
今回ご紹介するのは大熊嵩子作曲、女声合唱のための「今日をきらめく」です。
女声3部合唱とピアノの編成で、テキストは朝日新聞に月一で連載されていた谷川俊太郎の「どこからか言葉が」で発表された詩から4編が選ばれています。「どこからか言葉が」は谷川さんが晩年にしたためられた詩の数々です。
作曲の大熊嵩子さんはこの合唱団との長年の関わりがあったそうで、2022年10月に住友生命いずみホールで行われたエコーきさらぎの「エコーきさらぎ50周年記念コンサート」にて「からっぽ」と「過去へ」の2曲がまず委嘱初演され、2023年11月には大阪市立阿倍野区民センターにて、「エコーきさらぎ Autumn Concert~51年目のはじまり~」(指揮:松尾卓郎、ピアノ:谷口敦子)で全曲初演されています。
老若男女問わず幅広い層が共感できるものを歌いたいとのリクエストによって、技術的には極力シンプルに、その中でも歌う満足感を得られるものを心掛けて作曲されたそうです。
1. 雪ノ朝
目覚めたら一面の雪。思わず外へ飛び出していってしまいそうな軽やかな音楽。大人だって子どものような心、そして本物を見極める眼をもっている。
2. 雪を見ている
「空を見ていると 雲をみている気持ちに気づく」という言葉がキーとなり、12/8拍子の浮遊間が心地よいメロディックな曲です。
3. からっぽ
哲学的な詩の世界とは裏腹にポップに、そしてコミカルに描かれた音楽がとっても楽しい。見えないものを楽んでしまう遊び心満載です。
4. 過去へ
自分が世の中に誕生した日へと遡る遥かな旅を通して、今の自分を発見してきます。
息の長いフレーズと言葉に寄り添った音楽が感動的です。
音を紡いでいく過程そのものが楽しいこと間違いありません。
全曲演奏時間は約16分程度。
女声合唱コンサートのひとステージにいかがでしょう?
(田中エミ)
カワイのHPで初演の試聴も可能です。
https://youtu.be/8X80ri5smEc?si=hiwJ1lnf4cWPDsZW

【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。大学では、松下耕氏ゼミにて合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。
(公式サイト https://emi-denchan.com/profile/)