作曲家 Gwyneth Walker (1947-present) / オリジナル合唱ピース 女声編64 女声合唱とピアノのための 空を呼吸する(根岸宏輔 作曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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本日のアメリカ合唱紹介は日本ではあまり聞いたことのないキリスト教の宗派であるQuaker(クエイカー・キリスト友会)に関係する作曲家、Gwyneth Walker (1947-present)の曲を取り上げたいとおもいます。
Walkerはコネチカット州出身でQuakerの家族のもとで育ちました。アメリカ有名大学Ivy Leagueの一校でもあるBrown UniversityとHartt School of Musicで作曲を学びDMA(Doctor of Music Art)まで修めています。Hartt School of MusicとOberlin College Conservatoryで教鞭をとったのち、学校の仕事をしつつ作曲をすることに限界を感じ作曲に集中するためバーモント州の酪農地へ移り生活をしています。Quakerは平和主義を貫き男女平等を重んじているためWalkerの作品にもその思いが色濃く反映しています。
Steal Away (2014)
有名な黒人霊歌であるSteal Away to Jesusは悲しみと強さの2面性を表現しています。静かに悲壮感を歌い上げる面があると思えば、確信をもって「主が雷をもち私を呼んでいる」と歌い上げます。昔ながらのCall and Responseのような効果がインフォーマルな形で使われています。作曲家いわく、曲内で使われている下降音階は流れる涙とStealing Awayを表し、逆に上昇音階は主に呼ばれて天に上ることを表現しているようです。
Steal Away – Arr. Gweneth Walker
https://youtu.be/pjN1zeLh7BM?si=zioEsuXyqmpMB9mD
I Will Be Earth (1992)
May Swensonによる無限の想像をかきたてるような詩を題材として作曲されたこの曲は歌っていても指揮をしていても毎回感じることがかわる不思議?ですばらしい作品です。私の中では激しいLove Songなのですが皆様はどう思いますか?
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I will be earth, you be the flower,
You have found my root, you are the rain,
I will be boat, and you the rower.
You rock me and toss me, you are the sea.
How be steady earth that is now a flood.
The root is the oar afloat where has blown our bud.
We will be desert, pure salt the seed.
Burn radiant love, born scorpion need.
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I Will Be Earth (Walker) | Atlanta Master Chorale
https://youtu.be/ZYbNsyDNwY8?si=ZO6PkcNhI8q__maO
How Can I Keep From Singing? (1995)
1800年代に作曲されたQuakerの讃美歌の一つでおそらく一番有名なQuaker songでしょう。「歌うことはやめられない」という歌詞と踊るようなリズムとメロディーはキャッチーですが、その一方で歌われている内容は黒人霊歌のような重みがあります。迫害をうけていたQuakerがそのような状況でも「愛と信仰が最後に打ち勝つ」ことを信じ、「信仰があるのになぜ歌うことをやめられるのか?」といい続けます。
The Choral Project & Canadian Brass - "How Can I Keep From Singing" by Gwyneth Walker
https://www.youtube.com/watch?v=pBsE2WB9lT0
(市川恭道)
【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。
●オリジナル合唱ピース 女声編64
女声合唱とピアノのための 空を呼吸する
作曲:根岸宏輔
作詞:川井麻希
出版社:教育芸術社
価格:660円(税込)
声部:SSA div.
伴奏:ピアノ伴奏
判型:B5判・20頁
新緑の眩しい季節となりました。
今回はこの春に誕生したばかりのフレッシュな作品、根岸宏輔作曲「空を呼吸する」をご紹介します。
今年3月に東京音楽大学のTCMホールで行われた教育芸術社主催の【新作合唱曲による公開講座「スプリングセミナー2024」】にて合唱団はおうたや、ピアノは前田勝則、そして私の指揮で初演の機会をいただきました。女声三部合唱とピアノの編成で根岸氏の瑞々しい感性が光る力作です。
近年いくつもの作曲賞を受賞され、新進気鋭の作曲家として活躍中の根岸氏ですが、ピアノ付き女声合唱曲としては今回が初となります。
テキストは川井真希『あらゆる日も夜も』より。川井氏は2019年に第29回日本詩人クラブ新人賞を受賞した詩人です。景色などの瞬間を切り取るのが特徴で言葉のもつ音にもこだわりがあるそうです。
作品は詩の構成に沿って大きく3つに分けられます。
前奏は無く「空が私を眺めている」と堰を切ったように始まる導入部、ひとつの瞬きのように閉じようとする空と、その空に対峙した「私」の期待感や気持ちの昂ぶりがあたかもスローモーション映像であるかのように描写されています。その一瞬を駆け抜けるような疾走感ある音楽との対比が魅力的です。
中間部では「五感のどれでもないものが揺すられる」という言葉をきっかけに大きく展開していきます。言葉では表現できない「私」の心の動きが自由な拍子感の中で語るように歌われます。
いよいよクライマックスの後半部、繰り返されていく「私」の呼吸は寄せては返す波となり、昇華されていきます。
全体を通して音楽の流れが呼吸そのものであり、特にピアノパートがその流れをダイナミックに運びます。曲中、歌い手の吸気や呼気の音はリバースシンバルのような効果を生み出しています。
「私」が抱いているのは恋心でしょうか。それとも未来に対する漠然とした不安かもしれません。演奏者の想像力を搔き立てる詩と作曲家の感性がぴったり寄り添った作品と言えます。(田中エミ)
初演がYouTubeで紹介されているので参考にしていただければ幸いです。
https://youtu.be/ufIwiuiY1X8?si=eCPkNsoP-h7nQb3R
【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。大学では、松下耕氏ゼミにて合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。
(公式サイト https://emi-denchan.com/profile/)