作曲家 Jake Runestad / 混声三部合唱/二部合唱のための唱歌メドレー《ふるさとの四季》簡易伴奏版(源田俊一郎 編曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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今週末は全米でACDA(American Choral Directors Association)の地区コンファレンスが開かれています。アメリカの合唱指揮者・指導者が一堂に集まるイベントですが、合唱作曲家にとっても委嘱作品の初演や自分の作品が披露される大舞台です。アメリカの有名な合唱曲はほぼこの舞台をとおり、指導者の目にとまり、その後有名になっていくことがほとんどです。今日はACDAを通して有名になった作曲家Jake Runestadを紹介します。
Jake Runestad (1986~) は米国イリノイ州生まれ。Eastern Illinoi Universityで2年、Winona State Universityで4年作曲を勉強し、その後 Peadoby Conservatory of the Johns Hopkins UniversityでDr. Kevin Putsに師事しました。その他にもJake Heggieに師事しました。Runestad氏の曲はアメリカをはじめ先進国で重要視されているトピックを題材にすることが多く、多くの合唱団に愛され歌われています。今日はその中から3曲紹介させていただきます。
I will Lift Mine Eyes (2006)
作曲家の意向で詩が少し変更されているますが、聖書の詩篇121が題材として使われています。超常的な存在がいつでも守り・導いてくれていることを説いています。その守り・導きを主張するかのように音楽も静けさの中で光が満遍なく照らされているような音を作っています。またメロディーは空と山の境界線が描く景色や色を表しています。(作曲者ウェブサイトより)
I will Lift Mine Eyes by Jake Runestad - UBC
https://www.youtube.com/watch?v=r_8O_4B5kvs
Fear Not, Dear Friend (2012)
Seraphic Fire からの委嘱でかかれた曲。「ジキルとハイド」の作者として有名なRobert Louis Stevensonが出版した詩の中の一つが題材となっています。
友達からの激励の詩といえばそれだけかもしれませんが、親友からのオブラートに包まないダイレクトな励ましであり、かつ自虐的なコミカルで笑えるような要素も含んだ美しい作品です。
その美しい詩をビジュアライズするように音楽が作られています。スタンザのくぎれに音楽も少し休憩をとり、詩のポイントである”Therefor be brave, and therefore, dear, be free”に向かいクライマックスが作られており、詩をサポートするように音楽が作られています。
Fear Not, Dear Friend (Version for Mixed Choir)
https://www.youtube.com/watch?v=7GPHQ76G254&t=102s
Please Stay (2016)
オハイオ州のACDA支部に所属する大学合唱団からの委嘱作品。年々増加する自殺を憂い鬱で苦しむ人々にあててツイートを集めて詞が作られました。綺麗な言葉で隠すのではなく、身近な人からの率直な言葉を綴った作品です。
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No! Don’t Go!
Don’t let your worst day be your last.
The storm is strong, but it will pass.
You think you can’t go on another day,
But please stay. Just stay.
Hope is real. Help is real.
You are breath, you are life,
You are beauty, you are light.
Your story is not over.
You are not a burden to anyone.
Please stay. Just stay.
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Please Stay – Jake Runestad
https://www.youtube.com/watch?v=17Ywn3ImcYE
(市川恭道)
※楽譜はパナムジカでお求めいただけます。
【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ・やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
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●混声三部合唱/二部合唱のための唱歌メドレー《ふるさとの四季》簡易伴奏版
編曲:源田俊一郎
出版社:カワイ出版
価格:1,540円(税込)
声部:SAB/SA
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約16分
判型:A4判・44頁
ISBN:978-4-7609-4210-7/978-4-7609-4389-0
「へ〜。趣味は合唱なんだ。どういう曲を歌ってるの?」という何気ない質問に返すべき答えが見つからず絶句してしまった経験はありませんか?筆者にはあります。(何度も)
そういった時に毎回のように心に去来するのは、(うわ〜どうしよう……現代の邦人作曲家の名前を挙げても知ってそうにないし、ましてや100年以上も前の教会音楽が大好きですなんて言ったら引かれないかな……)という葛藤であり、だいたいの場合は適当にお茶を濁してその場を切り抜けています。
筆者の経験上、非合唱人が考える“合唱”といえば、「第九」「メサイヤ」といったクラシック音楽、義務教育で触れてきたクラス合唱、そして童謡・唱歌といった“合唱”が想起されやすいように思います。そんな外から見た合唱のイメージのうち、最後に挙げた唱歌を合唱団で歌っても耐えうる高い音楽性を持って編曲をしたのが、今回取り上げる《ふるさとの四季》です。
《ふるさとの四季》は1981年に川崎混声合唱団の定期演奏会で初演。その2年後にはオーケストラ伴奏版が作られ、1986年に同じく川崎混声合唱団の定期演奏会で現在の出版のかたちとなる改訂版初演が行なわれています。
出版のバリエーションとしては、混声版(初版1986年)・女声版(初版1987年)・男声版(初版2002年)が揃っているうえに、2009年にはローマナイズをほどこし、サイズも大きくなった[演奏法解説付き]の各声部の版が発刊されています。オーケストラ伴奏版もカワイ出版のレンタル扱いで比較的安易に入手・演奏することができます。
昨年11月に、この「《ふるさとの四季》ファミリー」に新たなバージョンが仲間入りをしました。混声三部合唱と二部合唱の[簡易伴奏版]です。基本的な曲の流れは元の版から変わっていませんが、よりシンプルになり人数の少ない団・プロのピアニストがいない団でも取り上げやすくなりました。また、既存の版と同時に演奏する混合合唱での歌い方や、二部合唱版を混声合唱で演奏する際の歌唱プラン、抜粋して発表する際の演奏法など、巻末にはこの曲に取り組むハードルを下げてくれるヒントがたくさん記載されています。
〈故郷〉から始まり〈故郷〉へ戻る。その間に四季を代表する唱歌が各季節につき2、3曲ずつ歌い織られていきます。
春は、ピアノの右手が川の流れを模している〈春の小川〉、ドラマチックな盛り上がりが美しい〈朧月夜〉、男声の勇壮な響きが求められる〈鯉のぼり〉。
夏は、シンコペーションのノリの伴奏形が楽しい〈茶摘〉、美しい間奏を持つ〈夏は来ぬ〉、シンプルに原曲を活かした〈われは海の子〉。
秋の2曲はかなり尖った編曲で、遠くから聞こえてくる太鼓の音から始まり平行四度で歌われる〈村祭〉と、原曲でよく歌われるカノンを残しつつ色彩感豊かに変化させた〈紅葉〉。
冬は、意外な転調を含む〈冬景色〉、思わず庭を駆けまわりたくなるような〈雪〉。
どの曲も過不足なく日本の四季の魅力を伝えてくれます。
先ごろ名古屋大学の河西秀哉先生が発表された論考「厚生運動とうたごえ運動——その連続性を見る」(『労働と身体の大衆文化』所収)に興味深いご指摘がありました。戦前の挙国一致体制を支えた厚生運動に接近した合唱も、戦後にその反動の社会運動として盛り上がった“うたごえ”も、合唱音楽を社会に浸透させようという「社会化」の点から見れば連続性があるのではないか、という主旨と筆者は理解しました。
翻ってみるに、現代の合唱界を生きる私たちは社会と繋がろうとしているでしょうか。冒頭の問いに答えられなかった自分には、非合唱人に対して合唱への扉を常に開け放ち、聞きに来るのも歌いに来るのもウェルカムな活動をもっとしなければと思えてならないのです。《ふるさとの四季》は合唱と社会をつなぐ結節点になれる作品のひとつであると私は思います。
(坂井威文)
【筆者プロフィール】
坂井 威文(さかい たかふみ)
1988年、大阪府堺市に生まれる。近畿大学文化会グリークラブで3年間学生指揮者を務めたのち、大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻を優秀賞を得て卒業。同大学院音楽学研究室修了。現在、同大学研究生。現在、大阪などで11団体の合唱団の指揮・指導を行なっている。大阪府合唱連盟・関西合唱連盟主事。宝塚国際室内合唱コンクール委員会理事。第13回JCAユースクワイアアシスタントコンダクター。
ウェブ上では多田武彦、信長貴富、鈴木輝昭、千原英喜、石若雅弥の各氏の作品を一覧化するWikiページの作成・管理を行なっている。