Alice Parkerの作品 / 混声三部 女声二部合唱のための《歌は歌に》(石若雅弥 作曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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20世紀中盤のアメリカには6つのChoral Schools of Thoughts(合唱の宗派みたいなもの)があります。その中の一つがみなさまのよくご存知のRobert Shawの一派です。Robert Shawの作品や影響受けた人たちをあげればキリがありませんが、彼の功績はAlice Parkerを抜いて語ることはできません。
Alice Parker (1925.12 – 2023.12)はマサチューセッツ州ボストン生まれ・ボストン育ち。New England Conservatoryで音楽理論をSmith Collegeでオルガンと作曲を勉強しました。その後、Julliard Schoolで合唱指揮を勉強し始める前に参加したTanglewoodでRobert Shawと出会いました。
オペラや教会音楽をはじめParkerの作品は数えきれないほどありますが、今回はMartin Luther King Jr.の祝日もかね、アメリカが誇るべき音楽とParkerが深く愛し広め続けたAfrican American Spiritualsの編曲を含めた3曲を紹介したいと思います。
Hark, I Hear the Harps Eternal
アメリカ発祥の賛美歌の中でも有名なこの曲は、フォークソング・カントリーソングを思わせるメロディーです。Parkerは主にペンタトニック調をハーモニーにも使っています。明るく軽快な音楽にヨルダン川をこえる苦難のうちにもハレルヤと神をたたえ、よろこびを見出している心中の歌詞を絶妙に表現しています。
アメリカ初期のハンマーを撃つようなアクセントとハーモニーも聴きどころです。
Hark, I hear the Harps Eternal – Baylor Concert Choir
https://www.youtube.com/watch?v=yt7uSfvtW1M&t=1s
Is Anybody Here that Love my Jesus
気持ち良いスウィングがきいたメロディーとは裏腹に「I want to know if you love my Lord」「When every star refuse to shine, I know King Jesus will be mine」と周囲に問いかけ、説得するような(黒人霊歌では多く見かけます)強い歌詞をもっています。
Alice Parker / Robert Shawのアレンジは大人数で歌う編曲が多く、この曲も多声部にわかれソロがフィーチャーされています。
Missouri State University Chorale – “Is There Anybody Here?” arr. Alice Parker
https://www.youtube.com/watch?v=Pl0YJwlDgqw
On the Common Ground
Black Lives Matterムーブメントの渦中、心を痛めたParkerが書いた作品。人種・思想の違う人々がどのように歩み寄れるか、話し合いができなくとも音楽・歌をもってすれば寄り合うことができるかもしれないといった思いが込められています。
(市川恭道)
On the Common Ground by Alice Parker – Scrolling Score
https://www.youtube.com/watch?v=Vz6732iCEBM&t=32s
Alice ParkerとDr, Anton Armstrongのインタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=wRs7Ro9qunE
【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。
●混声三部/女声二部合唱のための《歌は歌に》
作曲:石若雅弥
出版社:カワイ出版
価格:1,650円(税込)
声部:SAB/SA
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約11分
判型:A4判・32頁
ISBN:978-4-7609-4297-8
「混声合唱は緑、女声合唱は赤、男声合唱は青」というカワイ出版の楽譜の編成別色分けは、長らく邦人合唱曲をレパートリーとして歌ってこられた方にとって深く結びついているものと思います。しかし最近登場してきた“紫”については、まだあまり馴染みがなかったり知らなかったりする方が多いのではないでしょうか。カワイ出版のウェブサイトで“紫”シリーズの楽譜をいくつか見ると、女声・男声を問わない同声合唱としても男女の高声と低声を重ねた混声二部としても歌える「どの編成(声)でも演奏可能」という説明が共通して書いてあります。
今回ご紹介する《歌は歌に》も“紫”の楽譜です。「混声三部/女声二部合唱のための」というのはなかなかお目にかからない副題ですが、譜面上は混声三部合唱で、男声パートなしでの女声二部合唱や、女声二部合唱をオクターヴ下げた男声二部合唱としても演奏可能な旨が前書きに記されています。
作詩は与謝野晶子、作曲は石若雅弥。これまでに《君死にたまふことなかれ》(混声・女声・男声、カワイ出版既刊)などの作品がある組み合わせですが、ともに堺女学校・泉陽高校という流れを同じくする学校の出身という共通点があります。この作品は、同校音楽部(顧問:石毛明生)の第20回定期演奏会用に作曲された終曲〈我友〉と、組曲《君死にたまふことなかれ》のアンコールとして書かれた表題曲〈歌は歌に〉の2曲を軸に、歌に関する与謝野晶子の詩を集めた曲集です。
1. 歌は歌に 戦地での弟を想った詩「君死にたまふことなかれ」の発表で世間から非難された与謝野晶子が反論した「ひらきぶみ」の、「真実を歌わない歌になんの値打ちがあるのか」(筆者訳)という部分に作曲。後奏は〈君死にたまふことなかれ〉の前奏に繋がるように作られています。
2. 我歌Ⅰ ドリア旋法風のワルツ。
3. 秋の心 8/9拍子ながらもその曲調は重々しく、「歌わんとして躊躇(ためら)えり」という始まりの一節は、コロナ禍での合唱と心情的に重なります。
4. 我歌Ⅱ この曲集のなかでもっとも明るく響く曲で、「一息にこそ歌うなれ」というフィナーレの一句に向けて爽やかに歌い上げます。愛すべき小品。
5. 我友 前書きにもある通り「e, c, g」の三音がモティーフとして使われており、実はある人の名前を用いた主題になっている、という仕掛けがあります。楽譜の前書きだけでは分からないのですが、この文章の3段落めをお読みになって気付いた方はニヤリとしてください。
筆者は、二部合唱版の指揮や混声三部合唱版の合唱として初演に参加しました。5曲のキャラクターの違いもあって、合唱の楽しさを感じながらそれほど難しくなく歌える曲集です。これまで“緑”しか手に取らなかった混声合唱団の選曲候補に加えてみてもおもしろいと思います。
(坂井威文)
【筆者プロフィール】
坂井 威文(さかい たかふみ)
1988年、大阪府堺市に生まれる。近畿大学文化会グリークラブで3年間学生指揮者を務めたのち、大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻を優秀賞を得て卒業。同大学院音楽学研究室修了。現在、同大学研究生。現在、大阪などで10団体の合唱団の指揮・指導を行なっている。大阪府合唱連盟・関西合唱連盟主事。宝塚国際室内合唱コンクール委員会理事。
ウェブ上では多田武彦、信長貴富、鈴木輝昭、千原英喜、石若雅弥の各氏の作品を一覧化するWikiページの作成・管理を行なっている。