アメリカ合唱曲 有名なポップスの曲/ 女声合唱のための昭和ノスタルジー「あそこのかどから」(源田俊一郎 作曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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今年に入ってアメリカ合唱曲コーナーでクラシックを紹介することが多かったので、今回は合唱団で歌われている有名なポップスの曲を3つ紹介させていただきます。
Some Nights
2012年に世界中で売れたアメリカのインディーバンド“Fun”のブレイク曲です。ポップな聴きやすい曲なのですが、表向きの内容は空想のアメリカ南北戦争ですが、深い意味を考えるとアイデンティティーや人生の目的を探す旅のような万人が共感できる内容です。
原曲でコーラスが多用されているため合唱・アカペラで歌われることが多い曲です。
Some Nights – Stellenbosch University Choir
Arranger: Tom Anderson
https://www.youtube.com/watch?v=7bEZ65DEo54
伴奏は打楽器のみ、アフリカンアメリカン的なアレンジになっています。ライオンキングを思い出させるような編曲はコンサートの最初・最後にもってこいですね。
Man in the Mirror
マイケル・ジャクソンが亡くなってすでに14年経ちましたが、ポップスのレジェンドを知らない人はいないでしょう。彼の曲の合唱編曲は多数ありますが、中でも私のお気に入りは“Man in a Mirror”です。一人一人が自分を見直し・改善を心がけるところから世界を変えていこうという内容がコンサートのクロージングとして適切なことが多く、私もよく振ることがあります。
Batavia Madrigal Singers
Arranger: Kirby Shaw
https://www.youtube.com/watch?v=DvgAENysjqM
このようなクリーンでポジティブな曲は教会でも使われることがあります。(Liberalな宗派に限る) 90年代に流行った映画「天使にラブソングを」シリーズでもポップスを教会で歌って嫌味を言われるシーンが多々ありましたが、2012年に売れた映画「Joyful Noise」ではこの曲を教会で歌うシーンがありました。みなさんもぜひ一度みてください。Dolly Parton, Queen Latifah, Jeremy Jordan, Keke Palmarがでている映画に失敗はありません!!
Joyful Noise “Man in the Mirror” full scene
https://www.youtube.com/watch?v=_RxTSoiqXg0
All of Me
愛についてチープに語るポップスは腐るほどありますが、逆に歌詞・メロディーともに美しいラブソングは現代になるほど少なくなってきています。ジョン・レジェンドの”
All of Me”は結婚式にでも使いたくなるくらいですが、合唱編曲ではさらに感情が浮き彫りになります。
Stellenbosch University Choir
Arranger: Andre van der Merwe
https://www.youtube.com/watch?v=YOjYbS3aCak&list=RDYOjYbS3aCak&start_radio=1
普段はポップスなんて聞かないという方も一度聞いてみてください。(市川恭道)
【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ・やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
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●女声合唱のための昭和ノスタルジー「あそこのかどから」
作曲:源田俊一郎
作詩:小野興二郎
出版社:カワイ出版
価格:1,650円(税込)
声部:SA
伴奏:ピアノ伴奏
判型:A4判・32頁
ISBN:978-4-7609-4309-8
収録曲:
石けり/のぞいて見たら/指切りしたあと/遠くて近い/あそこのかどから
今回は小野興二郎詩、源田俊一郎作曲の『女声合唱のための昭和ノスタルジー あそこのかどから』をご紹介します。
詩人の小野興二郎は源田俊一郎氏の母方の叔父でいらっしゃるそうです。小野興二郎は46歳のときに医療事故のために視力の多くを失いながらも、短歌誌「泰山木」を主宰しながら生涯にわたって歌作を続けた作家です。両氏の共同制作は1991年から始まり、2007年に小野氏が亡くなられたあとも、今回のように続いていているということになります。
この曲集は2022年12月に札幌市のふきのとうホールで行われたMUSICA SOAVE vol.7 “Come stai?”にて、一鐵久美子、針生美智子のソプラノデュオと石橋克史のピアノにより二重唱版が初演されています。
二部合唱だけでなく重唱やソプラノパートのみで歌う独唱曲としても、また子どもたちの合唱でも聴いてみたいと思うような作品です。歌の風景を作り上げるピアノパートを弾いてみると、次の展開をワクワク期待している自分がいました
「石けり」
子どものころ、砂利道をあてもなく歩いて、ふと石ころを蹴ったときの思い出が綴られています。土や草の香りまで懐かしく漂います。思わず外へ散歩に出かけたくなるような歌。
「のぞいて見たら」
花や森、橋や峠。詩人の故郷の風景に思い出が詰まった詩です。今もその風景はあるのでしょうか。ノスタルジーたっぷりの世界とは裏腹に、軽やかなメロディーが優しく運んでくれます。
「指切りしたあと」
♪指切りげんまん うそついたらはりせんぼん飲ます
という懐かしいわらべうたが登場します。ピアノのリズムには心躍ります。アンダンテになった中間部での2声の掛け合いや、曲終わりのスリリングなテンポ設定では、歌うたびに違った演奏を楽しめるはずです。
「遠くて近い」
“遠くて近いものなあに?”というなぞかけは、歌い進んでいくうちに郷愁や人生の歩みに迫っていきます。同じメロディーでも歌詞によってさまざまな色合いに変化するでしょう。
「あそこのかどから」
ラララ〜と伸びやかな三拍子で始まるこの曲は曲集のエンディングにふさわしく幕開けます。主人公が思い出の地を巡っていきますが、オルゴールのメロディーが、主人公の想いと重なっていく場面が素敵です。 『私のお気に入り』(サウンド・オブ・ミュージック)をどこかで意識したのも、昭和の時代を懐かしんでのことだそうです。
〈昭和ノスタルジー〉というタイトルを見ると音楽も昭和の香り?と思いきや、オシャレでポップな親しみやすい雰囲気が漂っています。
詩人が生まれ少年時代を過ごした愛媛県上浮穴郡面河村(現 久万高原町)の田舎の風景を、写真でですが、眺めてみました。高知県との県境にあって急傾斜地が多く、川と森の紅葉がとても美しいところでした。この曲集を通して流れる風景を感じられる気がしました。
どんな編成の女声(同声)合唱団でも楽しめる曲集です。(田中エミ)
【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。大学では、松下耕氏ゼミにて合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。
(公式サイト https://emi-denchan.com/profile/)