ブロードウェイ / カワイ出版のこどもコーラス・コレクション「思い出」「STARS」(根岸宏輔 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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みなさん、アメリカ音楽といったら何を思い浮かべますか?合唱を嗜むみなさまはまず黒人霊歌やジャズなどを思い浮かべる方が多いかと思いますが、忘れようにも忘れられないのがブロードウェイミュージカルです!ニューヨークに行き本場の劇場でみたことのある方はもちろん、日本で劇団四季が好きな方も必見!本日のアメリカ合唱曲紹介はブロードウェイです。
 
ミュージカルでは私たちが思い浮かべるような合唱曲が舞台上で歌われることは少ないのですが、日本人が思うよりはるかに多く合唱編曲が書かれ歌われています。今日はその中から数曲、特に原作が有名なものを紹介したいと思います。
 
 
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“Maria” from West Side Story
 
去年末にスピルバーグ監督でリメイクされた、みなさまご存知・ミュージカルの定番、ウェストサイドストーリーから「マリア」です。映画が公開される直前にこの作品のLyricistであるStephen Sondheimが亡くなったニュースを覚えている方もいらっしゃるでしょう。(Sondheim氏は作曲家でもあり”Into the Woods”や“Sunday in the Park withGeorge”などでは作詞作曲されています)
 
さて今回紹介する編曲はKing’s SingersやVOCES8にも書いているイギリス音楽家JimClementsのものです。男声メロディーが朗々と歌うことができるようにアレンジされており、オクテットから大人数の合唱団にまで楽しんで演奏できるものとなっています。トライトーンを楽しみたい方にはもってこいですね。
 
VOCES8: Maria from West Side Story
YouTube動画:  https://www.youtube.com/watch?v=sl9QXjS2kSk
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“For Good” from Wicked

ミュージカル史上歴代5番目のロングランであるWickedは、ストーリーとしては「オズの魔法使い」のスピンオフです。ただ現在では本編と比べても甲乙つけがたい作品で多くの人に愛されています。
 
その中でも友情関係を歌った”For Good”は”Defying Gravity”と並びもっとも有名な曲です。ミュージカル終盤で歌われるこの曲は親友をもつ人たちの涙を誘います。
 
For Good (SATB Choir) – Arranged by Kirby Shaw
YouTube動画: https://www.youtube.com/watch?v=fdeLh_2fI5Y

ちなみにロングランランキング1位から4位は、”Phantom”, “Chicago”, “The Lion King”,
“Cats”です。私は個人的にキャッツが好きではありませんが、シカゴの大ファンです。
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“Found / Tonight”

この曲は近年トニー賞をとった2つのミュージカルの代表曲のマッシュアップです。
“You will be Found”は現代に起こるいじめ・SNS・自殺などをトピックにした”Dear Evan Hansen”より、”The Story of Tonight”はヒップホップを取り入れたミュージカル”Hamilton”の一曲です。この2曲のマッシュアップをEvan Hansen役を演じたBen Plattと作曲者兼・Hamilton役のLin-Manuel Mirandaが歌ったことで、この編曲ができました。
 
Dear Evan Hansenは去年映画にもなりましたし、HamiltonはDisney Channelで視聴可能となり現在でも大人気作品です。Hamiltonの作者Lin-ManuelMirandaのヒット作である"In the Heights”も昨年映画になりました。これらは日本でも観れるとおもいますので、興味があればぜひ。映画であればIn the Heightsが特にお勧めです。
 
オリジナルのデュエット
YouTube動画: https://www.youtube.com/watch?v=2aQykuIaJVI
Found/Tonight (SATB), adapted by Jacob Narverud
YouTube動画: https://www.youtube.com/watch?v=BTX1ojko0fA
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楽譜の注文はパナムジカにお問い合わせください。
 
次回のアメリカ合唱曲紹介では、Secular Requiemを2つ紹介したいと思います。お楽しみに。
(市川恭道)

市川恭道(いちかわ・やすみち)

【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ・やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。

 

日本の合唱作品紹介

新進気鋭の若手指揮者、佐藤拓さんと田中エミさんのお二人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

●こどもコーラス・コレクション-ジュニア- 同声二部合唱曲「思い出」

●こどもコーラス・コレクション-ジュニア-
同声二部合唱曲「思い出」

作曲:根岸宏輔
作詩:工藤直子
解説:野本立人
出版社:カワイ出版
価格:550円(税込)
声部:SA
伴奏:ピアノ伴奏
言語:日本語
時間:3分20秒
判型:A4判/12頁
ISBN:978-4-7609-4440-8

●こどもコーラス・コレクション-シニア- 同声三部合唱とピアノのための「STARS」

●こどもコーラス・コレクション-シニア-
同声三部合唱とピアノのための「STARS」
作曲:根岸宏輔
作詩:田中章義
解説:名島啓太
出版社:カワイ出版
価格:660円(税込)
声部:SSA
伴奏:ピアノ伴奏
言語:日本語
時間:4分
判型:A4判/16頁
ISBN:978-4-7609-4433-0

今回はカワイ出版のこどもコーラス・コレクションから、根岸宏輔さんの作品を2つご紹介します。

根岸宏輔さんといえば第37回現音作曲新人賞、第31回朝日作曲賞、2021年度武満徹作曲賞第1位という、若くして華々しい受賞歴をもつ気鋭の作曲家。
まず一曲目はジュニア向けの作品で、同声二部合唱「思い出」。工藤直子さんの詩によります。
何気ない一日の終わりに見た夕日。記憶のひだの奥で静かに眠り、ふとしたときにその匂いや空気を思い起こして温かく、少し寂しい心持ちにもさせる。どんな心境にも寄り添ってくれるような夕日。
ゆったりとした三拍子の中で、限りなくシンプルでどこか懐かしさを感じるメロディから始まります。そして穏やかなホ長調の流れのなか「この いちめんに にじんだものを そっと ひとところにあつめたら」という場面で、突如、心の曇りが晴れるような和声進行が現れるのが魅力的です。私だったらこの箇所を歌いたいがためにこの作品を演奏するかもしれません。あるいは鍵盤で何度もなぞってしまいますね。
歌詞のないLalalaの部分に大きなディナミクスが与えられており、言葉では表し切れない思いを歌い上げています。

さて、もう1曲はシニア(ジュニアより少し上級者向け)の同声三部合唱とピアノのための「STARS」。こちらはもう少し難易度が高めです。

田中章義さんの詩の中にある「星(のひかり)」は人格のあるものとして描かれておりとてもユニークです。詩人は星の光が何億年もかけて地球に届くまでの道のりを想像し、その途中でのひかりの仲間同士の戯れや苦楽をコミカルに描いています。また、その星々を作った“さみしがり屋さん”に想いを馳せているところも詩人のユーモラスな一面でしょう。

音楽の中の日本語はとても自然で、最初は変拍子のリズムの練習に時間がかかるかもしれませんが、慣れてくればそれが滑らかな言葉の流れを作るためにあったことに気付くでしょう。ピアノパートはダイナミックであり宇宙的スケールをもって爽快に音楽を運んでゆきます。

この作品のエンディング直前に、既に曲が終わったかのような空白が現れます。まるで宇宙の真空空間に解き放たれたように一瞬浮遊して、最後の7小節でこの果てしない宇宙を旅する星の光の無限の広がりを感じながら幕を閉じます。

コンクールの自由曲としても映える作品ですが、ただ技術を競うだけでなく、この作品に散りばめられた「ひかり」を操り、自由な発想で演奏されることを期待しています。
(田中エミ)

田中エミ (たなか えみ)

【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
国立音楽大学音楽教育学科卒業。在学中は松下耕氏のゼミで合唱指揮を学ぶ。同時期より栗友会に参加し合唱の研鑽を積んでいる。器楽指揮を髙階正光、今村能に師事。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞。2013年にノルウェー、オーストリアへ短期留学。現在、子どもから大人まで、幅広い世代の合唱団を多数指導。アンサンブルピアニスト。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。