アメリカの合唱曲 Shenandoah シェナンドー / 混声合唱とピアノのための組曲「いわかがみ」(山下祐加 作曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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合唱ファンの皆様、明けましておめでとうございます。今年も数回ではありますが、アメリカの合唱曲を紹介させていただきます。少しでも皆様の探求心をくすぐるような作品を選びたいと思います。2025年初回に紹介する皆様もよくご存じのフォークソング「シェナンドー」” Shenandoah” を詳しく紹介したいと思います。
美しいメロディーと哀愁がつまった歌詞で有名な“O Shenandoah“はアメリカのSea Shanty/Chanty(シーシャンティー)です。通常のShantyは黒人霊歌のようなWorking Songで強拍が明らかなテンポのよい曲が多いのですが、この曲は雄大なミズーリ川を象徴するかのようなバラードです。
歌詞とその意味についてはいくつかの説がありますが、Shenandoahというのは有名なインディアンの族長・船乗りだったというのが通説です。初期の歌詞をみると、彼は英国軍に協力してフランスと戦っていたため、自分(族長)の娘とフランス軍の男性と恋に反対したということがわかります。
======歌詞は以下の通り======
Missouri, she's a mighty river. Away you rolling river.
The redskins' camp, lies on its borders.
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
The white man loved the Indian maiden, Away you rolling river.
With notions his canoe was laden.
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
"O, Shenandoah, I love your daughter, Away you rolling river.
I'll take her 'cross yon rolling water."
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
The chief disdained the trader's dollars: Away you rolling river.
"My daughter never you shall follow."
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
At last there came a Yankee skipper. Away you rolling river.
He winked his eye, and he tipped his flipper.
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
He sold the chief that fire-water, Away you rolling river.
And 'cross the river he stole his daughter.
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
"O, Shenandoah, I long to hear you, Away you rolling river.
Across that wide and rolling river."
Ah-ha, I'm bound away, 'Cross the wide Missouri.
(from Ships, Sea Songs and Shanties Collected by W.B. Whall, Master Mariner)
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真実はわかりませんが、広大なミズーリ川を真ん中に対立している英国軍とフランス軍をShenandoahに反対されて一緒になることのできないカップルを表しているのでしょうか。この曲が合唱曲として歌われる際、よく歌詞が削られます。おそらくより具体的な歌詞を端折ることによって聞き手の理解にまかせるようにしていると感じます。
それでは1つ作品を紹介したいと思います。
“Shenandoah” arr. by James Erb(無伴奏SSAATTBB編曲)
https://www.youtube.com/watch?v=BwL9r7C1CM0
1番はSoprano/Altoのユニソンから始まり、2番Tenor/Bassのユニソンを経由して3番はソロと6パートにわかれます。細い水の流れが少しずつ太くなり雄大な川になる様子がText Paintingとして描かれています。4番は高声部3パートの掛け合いが波を表し、コーダではその掛け合いが2音となり、最後ユニソンで曲が終わります。
少人数でも大人数でも楽しめる編曲です。みなさまもぜひ次の演奏会で取り入れてはどうでしょうか?
譜面の購入はパナムジカまでお問合せください。
(市川恭道)

【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

●混声合唱とピアノのための組曲「いわかがみ」
作曲:山下祐加
作詩:野呂昶
出版社:音楽之友社
価格:1,870円(税込)
声部:SATB
伴奏:ピアノ伴奏
時間:約16分30秒
判型:A4判・40頁
ISBN:9784276547728
今回ご紹介するのは野呂昶作詞、山下祐加作曲の混声合唱とピアノのための組曲「いわかがみ」です。
この組曲は合唱団の創立30周年記念として委嘱され、2023年6月25日(クラギ文化ホール(松阪市民文化会館)やちまた混声合唱団 創立30周年記念第18回定期演奏会(指揮:向井正雄/ピアノ:山本美保/弦楽:やちまたスペシャルアンサンブル(1st ヴァイオリン:二川理嘉/2nd ヴァイオリン:檜垣彩乃/ヴィオラ:小坂ゆかり/チェロ:小縣歩/コントラバス:伊藤玉木)にて委嘱初演された作品です。
「優しい気持ちになれる曲」という合唱団からのリクエストにより『野呂昶詩集 森のなかで すきとおる』(竹林館)より5篇が選ばれ、初演はピアノ+弦楽五重奏の伴奏によるものでしたが、その後ピアノ・リダクション版が刊行されました。
以前も野呂昶さんの詩による作品ご紹介した回がありましたが、畑仕事を通して自然や生き物と触れ合う営みの中から生み出される野呂さんの詩には動物、植物、そして人への優しい眼差しがあり、癒しや活力を与えてくれると私自身感じています。
5つの違う視点からみた朝夕の時間の経過や季節の移ろいを映し出すオーケストレーションが美しく、一つの舞台のような組曲となっています。
水仙 ここから始まるドラマ全体の序曲のような、神秘的で期待感溢れる曲。早春の朝に水仙に降り立った天女が見え隠れします。
案山子 ジャジーなハーモニーとスウィングに乗って、ひとりぼっちの寂しい案山子の心を歌う、少しアンニュイな世界です。
はるしおん はるしおん(春紫苑)という花は手入れの行き届いた庭には生えず、荒れた庭などに咲く花だそうです。繊細な和音の移ろいの味わいの中に慰めが与えられます。
ふくろう ふくろうのコミカルなテーマが散りばめられて、時空を越えた奥行きのある世界を表現しています。
いわかがみ いわかがみは鏡のような葉が辺りを映し出すことに由来し「忠実」を表す花言葉をもつそうです。激しい沢の流れのかげでひっそりと咲くその姿の対比を山下さんがドラマチックに描いたいのちの讃歌です。
ピアノ・リダクション版になったことで、より多くの合唱団が演奏できるようにという作曲家の願いが叶うのではないかと期待しています。(田中エミ)
初演は全曲YouTubeで試聴することができます。
https://youtu.be/MOrmvQbMw74?si=l_JOXFjn8Id7qJ5E

【筆者プロフィール】
田中エミ (たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。大学では、松下耕氏ゼミにて合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。
(公式サイト https://emi-denchan.com/profile/)