Saules svētki 太陽の祭り(Jāzeps Vītols 作曲)/ 「どこからか言葉が」(谷川俊太郎 作詩)
世界の合唱作品紹介
国内外で活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、山﨑志野さん、仲光甫さんが数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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●Saules svētki(太陽の祭り)
作曲: Jāzeps Vītols(ヤーゼプス・ヴィートルス)
声部:SATB div.
伴奏:ア・カペラ
言語:ラトビア語
時間:3分15秒
日本の桜が緑で茂るころ、ラトビアの公園に植えられた桜は今、満開を迎えます。ラトビアの春の訪れは、陽の長さが日に日に増し、太陽は、劇的に、と表現するほど街を鮮やかに彩り始めます。今日は、春の訪れを歌う、19世紀後半から20世紀前半にかけて活動したラトビアの作曲家ヤーゼプス・ヴィートルス(1863–1948)による作品を紹介します。ヴィートルスは、ロシア帝国時代からラトビア独立期、さらに第二次世界大戦前後という激動の時代を生きながら、ラトビアのクラシック音楽文化の確立に大きく貢献した人物です。現在のラトビア音楽院の創設者でもあり、ヤーゼプス・ヴィートルス・ラトビア音楽院と音楽院の名称にもその名を飾ります。彼はサンクトペテルブルク音楽院でリムスキー・コルサコフに師事し、ロマン派後期の作曲技法を基盤としながら、ラトビア民族の旋律や自然観を取り入れた作品を数多く残しています。
本作品は、ラトビアの象徴主義を代表する詩人フリチス・バールダ(1880–1919)の詩に作曲され、ラトビアの自然観と民族的精神を象徴的に描かれています。詩は、擬人化された太陽が「黄金の角」を持つ存在として、雪をつついて春を呼び起こす様子が生き生きと描かれ、やがてその光は暗い家の中へと運び込まれ、そこに佇む白髪の老人のもとに届き、老人は涙を静かに流します。それは、内面的な暖かい喜びを呼び覚ますとともに、雪解けの象徴を思わせます。音楽は民謡を思わせる女声の旋律と、春の訪れを後押しして知らせるファンファーレのような男声との掛け合いで、牧歌的に始まります。明るく輝かしい響きを基調としながら、太陽が、草原の小屋を、霜で曲がったもみの木を、と村々を照らしていく情景を、8分の6拍子で軽やかに歌われ、節々で歓喜の声のように「Pavasaris!(春よ!)」とロマン的な和声と共に繰り返されます。コーダでは、meno mossoで、突然の弱音の中で静かに、内面的で暖かな喜びが歌われ、徐々に弱まるディミヌエンドで、歌の主要なモチーフである「Pavasaris(春よ)」という言葉が静寂の中で女声の長三和音で再び現れ、pppで男声が遠く響くエコーのように締めくくられます。
雪が解け始めるラトビアの今にぴったりな、春の訪れを味わえる作品です。是非、手に取ってみてください。(山﨑志野)
【音源】
https://youtu.be/1j1n7XBzLog?si=RH3RlUczmdqkaDFw
【楽譜】
https://www.musicabaltica.com/2735.html
※楽譜はパナムジカでもお求めいただけます。
【筆者プロフィール】
山﨑 志野 (やまさき しの)
島根大学教育学部音楽教育専攻卒業後、2017年よりラトビアのヤーゼプス・ヴィートルス・ラトビア音楽院合唱指揮科で学び、学士課程および修士課程合唱指揮科を修了。2022年にはストックホルム王立音楽大学の修士課程合唱指揮科で学ぶ。2023年9月よりラトビア放送合唱団のアルト、またラトビア大学混声合唱団Dziesmuvaraの指揮者として活動する。第2回国際合唱指揮者コンクールAEGIS CARMINIS(スロベニア)では総合第2位、第8回若い指揮者のための合唱指揮コンクールでは総合2位およびオーディエンス賞を受賞。合唱指揮を松原千振、フリェデリック・マルンベリ、アンドリス・ヴェイスマニス各氏に師事。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。
●「どこからか言葉が」
作詩:谷川俊太郎
出版社:カワイ出版
2024年11月13日、谷川俊太郎は亡くなりました。享年92歳。
戦後詩に偉大な足跡を刻みつづけた詩人の死からまもなく1年半が経とうとしていますが、いまなおその影響力は衰えていません。昨年10月には、日本語学者の今野真二が書いた『谷川俊太郎の日本語』(光文社新書)という本が刊行されました。その本のなかでも、〈ワクワク〉〈未来〉〈生きる〉といった詩は、それぞれ信長貴富、髙嶋みどり、新実徳英の合唱曲に触れるかたちで言及されています。こうした世間からのイメージももちろんのこと、わたしたち合唱人にとって谷川俊太郎と合唱は切っても切れない存在ではないでしょうか。
そうした合唱界からの追悼の声の高まりを受けて、谷川詩の合唱曲を集めた大規模なコンサートが2つ企画されました。ひとつは2025年の命日に行なわれた「二十億光年のまつり——谷川俊太郎作品を巡る」(主催:東京国際合唱機構)、もうひとつが全日本合唱連盟と朝日新聞社の連名で主催された「谷川俊太郎、うたの地平へ -どこからか言葉が-」(2026年3月22日開催)です。
「谷川俊太郎、うたの地平へ」の第3部は「どこからか言葉が—6つの新曲、さあ、うたの地平へ—」のタイトルが付けられていました。この「どこからか言葉が」は、2016年から朝日新聞に掲載されていた谷川の詩の連載のタイトルです。
「全99篇の詩から、6人の作曲家が詩を選び、この日のために書き下ろした新作合唱曲にもご期待ください。」(企画委員/作曲家・信長貴富)ということで本日紹介する6作品が書き下ろされました。ブレーンYouTubeチャンネルで一部のみ試聴ができます。
(https://youtube.com/playlist?list=PLtjkoos4fvJXZJzDNmvR-5-XXTC3z-aYQ&si=WAEiMM2hL5vDUMhK)
●面川倫一:「六月」女声合唱とピアノのための
価格:770円(税込)
時間:約5分30秒
判型:A4判/16頁
ISBN:978-4-7609-4091-2
合唱団樹の会女声初演。「あなたを待っています」から始まる物語性のある詩に、ピアノ・パートも含めて極めて叙情的な音楽が紡がれています。譜面づらはすこし大変そうに思えますが、詩の内容としても成熟した大人〜シニア層の女声合唱団の声で歌ってほしい1曲。
●松本 望:「宇宙のマトリョーシカ」児童(女声)合唱曲
価格:770円(税込)
時間:約4分50秒
判型:A4判/16頁
ISBN:978-4-7609-4092-9
ジュニアコーラス フェアリーズ初演。音楽の一部がカノン構造になったり応答形式になっていたりと、「マトリョーシカ」の語が象徴するような作曲がされた作品。前奏部分はさまざまな演出をつけながら舞台袖から出てくることが提案されています。女声合唱でも演奏可能ですが、やはり児童合唱で聴いて、観てみたい1曲。ちなみに松本望はこの曲が児童合唱初挑戦なんだとか。意外!
●信長貴富:「今という時」混声合唱曲
価格:990円(税込)
時間:約5分50秒
判型:A4判/24頁
ISBN:978-4-7609-4093-6
松原混声合唱団初演。“今”という過ぎ去っていくこの一瞬を、疾走感のあるAllegrettoで表現した曲。大変な難曲であることは想像に難くないですが、腕に覚えのある合唱団には挑戦しがいのある曲だと思います。
●瑞慶覧尚子:「黙る」女声合唱曲
価格:880円(税込)
時間:約6分15秒
判型:A4判/20頁
ISBN:978-4-7609-4094-3
コーラス・インフィニ☆初演。「黙るということ/いま黙っているということ」から始まり、「〜こと」が繰り返される詩は、かの名詩「生きる」のセルフ・オマージュでしょう。冒頭は別の詩(「み」)が使われ、アカペラで最大7声部まで分かれるなどすこし技巧的な印象。ただし、ピアノ伴奏付きで声部も少なくしたIntro簡易版も併載されているのでご安心あれ。
●木下牧子:「雲を見ている」男声合唱曲
価格:770円(税込)
時間:約4分30秒
判型:A4判/16頁
ISBN:978-4-7609-4095-0
合唱団お江戸コラリアーず初演。調号も臨時記号なしで繰り返される「雲を見ている」は、詩の四連目で触れられる「まだ生まれていなかった/遠い昔」のメタファーでしょうか。シンプルなメロディに赤ん坊のころの、あるいは達観した老人としての詩人の姿が重なります。
●新実徳英:「GENESIS」混声合唱曲
価格:880円(税込)
時間:約4分30秒
判型:A4判/20頁
ISBN:978-4-7609-4096-7
あい混声合唱団初演。タイトルは「創世記」などを意味する英語。有声音で口々にタイトルを言いあうシリアスな冒頭からポップな伴奏が湧きでてきます。谷川の(ほぼ)ひらがな詩のドラマを新実は「自分勝手に掘り起こし、そして音のドラマに作り換えた」(前書き)と述べています。この曲は今年7月26日に初演予定の、〈天・地・創造〉―混声合唱とピアノのために、の終曲となることが新実徳英公式Webサイトのブログで告知されています。
連載「どこからか言葉が」の最終回は『感謝』でした。掲載されたのはすでに肉体はこの世を去ったあとでしたが、世間にはまだ公表されていない時期(2024年11月17日掲載)。詩人として見事な幕の引き方と言わざるをえません。
コンサート「谷川俊太郎、うたの地平へ」では本日紹介した6作品の初演のあとに、《感謝》(松下耕作曲)、〈きみ歌えよ〉(信長貴富作曲)、第一詩集の『二十億光年の孤独』の詩に曲を付けた〈春に〉(木下牧子作曲)が歌われました。〈春に〉はYouTubeに動画があがっています(https://www.youtube.com/watch?v=U6DvUknx2UM)。ブレーンからはこのコンサートを収録したCD-Rが数量限定で販売されます(https://www.brain-shop.net/shop/g/gBR-42044/)。
改めて、詩人・谷川俊太郎の偉大さを思わされます。(坂井威文)
【筆者プロフィール】
坂井 威文(さかい たかふみ)
1988年、大阪府堺市に生まれる。近畿大学文化会グリークラブで3年間学生指揮者を務める。大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻卒業、同大学院音楽学研究室修了。大学卒業時に優秀賞受賞。これまでに第13回JCAユースクワイアアシスタントコンダクター、リトアニアでの演奏などを経験。
現在、大阪などで13団体の合唱団の指揮・指導を行なっている。大阪府合唱連盟理事・関西合唱連盟主事。宝塚国際室内合唱コンクール委員会理事。
ウェブ上では多田武彦、信長貴富、鈴木輝昭、千原英喜、石若雅弥の各氏の作品を一覧化するWikiページの作成・管理を行なっている。
