Disney Fly Medley(Jamey Ray 編曲)/ 混声合唱とピアノのための「そこにねこのいる暮し」(橋本渓仙 作曲)

世界の合唱作品紹介

仲光 甫(なかみつはじめ)

世界の合唱作品紹介の執筆陣に、jammin’ Zebのメンバーとしても活躍しているSteve
さんこと仲光甫さんが新たに加わりました。
仲光さんには、ジャズ・コーラス、バーバーショップ、ポピュラー・コーラスのジャンルを中心にお勧めの合唱曲をご紹介していただきます。どうぞお楽しみに!

Disney Fly Medley

今回から執筆陣に加わることになりました、仲光 甫(Steve)です。
ヴォーカル・ジャズやバーバーショップ・ハーモニーを含む、アメリカ由来のポピュラー合唱音楽を足がかりに、少し輪郭の異なる合唱文化の世界を覗いていきたいと思います。どうぞよろしくお付き合いください。
初回となる今回は、アメリカを中心に演奏活動を行い、YouTube でも高い支持を集めているアカペラ・グループ Voctave(ヴォクターヴ)を入り口に、彼らのリーダー/アレンジャーである Jamey Ray の編曲に注目します。
Voctaveの活動拠点はフロリダ州。ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)をはじめとする、世界有数のエンターテインメント産業の集積地を背景に、メンバーの多くが歌手、パフォーマー、あるいはプロデューサーとしてキャリアを培ってきました。

この地域では、優れた人材が集まるだけでなく、日常的なパフォーマンスの現場を通して、コーラス・アンサンブルの技能が実践の中で洗練されていくという、特徴的な環境が形成されています。その代表的な存在が、WDWのEPCOTセンター・アメリカ館で連日パフォーマンスを行っている Voices of Liberty(以下VOL)です。
VOLは、民謡やスタンダード、愛国歌といった親しみのあるレパートリーを、高度に洗練されたアンサンブルと明晰なサウンドで聴かせてきたグループです。Voctaveの多くのメンバーが、ここでの経験を共有しています。
VOL、そしてその創設者/アレンジャーである Derric Johnson については、あらためて詳しく触れる機会を設けたいと思います。
Voctaveは、こうしたVOLが育んできた音楽的環境や技能を重要な背景としながら、映画音楽やミュージカル、ポップスへとレパートリーを広げ、より現代的なショウ・アカペラへと展開している存在と捉えることができるでしょう。

Disney Fly Medley
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https://voctave.shop/products/disney-fly-medley

Voctaveを象徴するレパートリーの一つであるこの作品は、完成されたグループ像を前提に生まれたものではありませんでした。
コアメンバーが定まる以前、Jamey Rayを中心にVOLの選抜メンバーでレコーディングされた編曲がYouTube動画として公開され、それがその後の展開の出発点となりました。
https://youtu.be/QQ0CZB_DUzE?si=I2If1rjXNK736kYk

『ピーター・パン』より “You Can Fly(きみもとべるよ)”、『メリー・ポピンズ』より “Let’s Go Fly a Kite(凧をあげよう)”、そしてレコーディング版では『ダンボ』の「もし象が空を飛べたら」も織り交ぜながら、それぞれの物語世界を、文字どおり“飛び移る”ように展開していきます。
楽曲の切り替わりや転調は、予想を心地よく裏切り、そのたびに新しい視界がひらけていくようです。歌い手にとっても聴衆にとっても、自然とワクワクさせられる構成になっています。
4オクターヴを超える音域は確かにチャレンジングで、譜面を見ると身構えてしまいがちですが、各パートの動きはとても歌いやすく書かれています。それぞれが無理なく歌うことで、オーケストラのような豊かな響きが立ち上がるよう、よく計算されたアレンジだと感じます。
ぜひ、皆さん自身のアンサンブルでもチャレンジしてみてください。きっと聴衆を魅了し、演奏する側も心がウキウキ舞い上がる体験を味わえるでしょう。
You can fly!!(仲光甫)

仲光 甫(なかみつはじめ)

【筆者プロフィール】
仲光 甫(なかみつはじめ)
ヴォーカル・グループ jammin’ Zeb のメンバー(ステージネーム:Steve)。
多数のアルバム制作や国内外での公演を重ね、メジャーリーグ開幕戦や日本ダービーでの国歌演奏など、幅広い舞台で活動している。
とりわけバーバーショップ・ハーモニーやヴォーカル・ジャズなどを含むポピュラー合唱音楽を入口に、歌唱表現やハーモニーの在り方を多角的に探求。
規模や立場を問わず、さまざまなヴォーカル・グループやアンサンブルと向き合い、アドヴァイザーとしても関わっており、その実践に裏打ちされた洞察やアプローチは、合唱ワークショップなどを含む、幅広い現場で信頼を集めている。
2014年には東京六大学合唱連盟定期演奏会の合同演奏を客演指揮。2026年5月には第10回全日本男声合唱フェスティバルの講師を務める予定。
ジャンルやコミュニティ、世代や慣習など既存の境界を越え、響き合う合唱文化の創造を目指し、日々うたい続ける。
米国 Barbershop Harmony Society(BHS)会員。

 

日本の合唱作品紹介

指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。

混声合唱とピアノのための「そこにねこのいる暮し」

●混声合唱とピアノのための「そこにねこのいる暮し」
作曲:橋本渓仙
作詩:直井和夫、藤富保男、萩原朔太郎、西條八十、高見順
出版社:カワイ出版
価格:2,420円(税込)
声部:SATB
伴奏:ピアノ
時間:約20分
判型:A4判・72頁
ISBN:978-4-7609-4868-0

今回ご紹介するのは、橋本渓仙作曲、混声合唱とピアノのための《そこにねこのいる暮し》です。ネコが題材というだけで、ネコ好きの私は楽譜を手に取らずにいられませんでした。
この作品は、コロナ禍での演奏中止から5年の時を経て温められ、2025年3月1日、愛知教育大学混声合唱団 第55回記念定期演奏会にて委嘱初演(指揮:友森美文、ピアノ:平松八江子)されました。混声合唱(SATB)+ピアノ伴奏の編成で、全5曲を通して演奏すると、およそ19〜20分程度の曲集です。
人間の長い歴史を振り返ると、なぜかいつもそこにはネコがいる。大切にされたり、煙たがられたり、いつの間にかキャラクターになっていたり……。気まぐれで自由、神秘的でいて妙に身近な存在ですね。
そんなヒトとネコの摩訶不思議な関係を、ちょっぴりユーモラスに、そしてドラマチックに描いた、音楽劇風の混声合唱作品です。
それぞれの詩人による「ネコ観」を楽しむことができ、ときとしてそれは人間の心を映し出しているようにも感じられます。

1.そこにねこのいる暮らし(直井和夫)
 楽しい演出もあり、ウキウキするようなポップな作品。
2.真昼の決闘(藤富保男)
 1曲目とうってかわって、サスペンシブな展開。小説《ルドルフとイッパイアッテナ》の一場面を連想させます。
3.青猫(萩原朔太郎)
 曲の冒頭とエンディングには、調号に♭が6つ並ぶ美しいア・カペラが響き、静謐で幻想的な世界観を演出しています。
4.猫の洋行(西條八十)
 フランスの牧師が、日本から船でネコを連れて帰るというストーリー。童謡風の旋律に、フランスの香りがする和声がゆ   ったりと漂います。
5.猫(高見順)
 誰にも媚びず、説明もせず、最後まで孤独を貫いて一生を終える「ネコ」。曲集を締めくくる感動的なフィナーレです。

歌って、演じて、気づけばあなたの心にも、ネコが住みつくかもしれません。(田中エミ)

田中エミ(たなか えみ)

【筆者プロフィール】
田中エミ(たなか えみ)
福島県出身。2003年、国立音楽大学音楽教育学科卒業。大学では、松下耕氏ゼミにて合唱指揮と指導法を学ぶ。また、同時期より栗山文昭のもと合唱の研鑽を積む。TOKYO CANTAT 2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位、及びノルウェー大使館スカラシップを受賞し、2013年にノルウェーとオーストリアに短期留学。2022年、武蔵野音楽大学別科器楽(オルガン)専攻修了。現在、合唱指揮者として幅広い世代の合唱団を指導。21世紀の合唱を考える会 合唱人集団「音楽樹」会員。
(公式サイト https://emi-denchan.com/profile/