En etsi valtaa, loistoa 私は力も栄光も求めない(Jean Sibelius 作曲)/ 沖縄のうたによる混声合唱組曲「とぅばらーま」(瑞慶覧尚子 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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En etsi valtaa, loistoa(私は力も栄光も求めない)

● En etsi valtaa, loistoa(私は力も栄光も求めない)
作曲:Jean Sibelius (ジャン・シベリウス)
出版社: Fennica Gehrman
声部:SA, SSA, SATB, TTBB
伴奏:ア・カペラ、一部器楽伴奏
言語:スウェーデン語(フィンランド語)

もうすぐクリスマス!2025年も終わりですね。12月8日はシベリウスのお誕生日、そして今年は生誕160周年の記念すべき年でした。本日は、シベリウスの作品1である『Jouluvirsi(クリスマス賛美歌)』から、「En etsi valtaa loistoa(私は力も栄光も求めない)」をご紹介します。この曲集は、1895年から1913年にかけて作曲された5曲のクリスマスキャロルで構成されており、中でも最も有名なのが本作です。元々は、1909年に作曲した独唱とピアノのための歌曲ですが、男声合唱4声、混声合唱4声、女声合唱4声、また女声2声用に編曲されています。

テキストは、フィンランドの詩人ザカリアス・トペリウス(1818-1898)による詩で、オリジナルはスウェーデン語です。シベリウスもスウェーデン系フィンランド人なので、フィンランドの合唱指揮者の友人によると、スウェーデン語が一番美しくメロディーを表現できるそう。フィンランド語訳については誰によるものかは不明とされています。謙虚に、従順に神様を慕い、この世に光とし来られたイエス様の生誕を祝う温かい作品です。

メロディーは1オクターブ内に収まる音域で、なめらかで美しく、まるで祈る人の姿のようで、歌詞の内容とぴったりと合っています。全体がA-B-Aで構成されており、Aは神様への祈りなので、頭を垂れるようになだらかに下行。Bでは、視線は天に向けられ、少しずつ上行し、頂点を迎えます。戻ってきたAでは、神様から与えられた聖霊を感じながら、祈りの中で静かな喜びが湧き上がってきます。

どの編曲でも、ホモフォニックに描かれ、歌詞とパートラインが自然と調和しています。1人1パートでも十分に演奏でき、人々の心に平安をもたらしてくれるような作品です。クリスマスコンサートのレパートリーにおすすめ!本作を含むシベリウスの作品を中心にした、『フィンランド混声合唱曲集』が来年はじめに出版予定です。日本の皆様にも手軽に歌っていただけるようになると思います。他にもフィンランド合唱作品を代表する曲が多数含まれていますので、お楽しみに!!皆様、どうぞ穏やかなクリスマスをお過ごしください。

私は力も栄光も求めない
黄金も必要ない
私は祈る、天の光と
平安が地上に与えられるように
喜びに満ち、心が神様に向けられるクリスマス
力でも黄金でもなく、
平安をどうか地上に与えてください

穏やかなおうちと子供のクリスマスツリーをお与えください
神様の言葉で
私たちの魂を照らしてください
小さいおうちでも
我が家で祝うクリスマスが
すてきなものになりますように
神様の言葉の光で
その崇高な心で

貧しい人にも豊かな人にも
すばらしいクリスマスでありますように!
世界の暗闇に
天の光をもたらしてください
私はあなたを切に願い、待ち望んでいます、天と地の神よ
貧しい人にも豊かな人にも
心地よいクリスマスを与えてください! (訳 堅田優衣)

堅田 優衣(かただ ゆい)

【筆者プロフィール】
堅田 優衣(かただ ゆい)
桐朋学園大学音楽学部作曲理論学科卒業後、同研究科修了。フィンランド・シベリウスアカデミー合唱指揮科修士課程修了。2015年に帰国後は、身体と空間を行き交う「呼吸」に着目。自然な呼吸から生まれる声・サウンド・色彩を的確にとらえ、それらを立体的に構築することを得意としている。第3回JCAユースクワイアアシスタントコンダクター、Noema Noesis芸術監督・指揮者、女声合唱団pneuma主宰、NEC弦楽アンサンブル常任指揮者。合唱指揮ワークショップAURA主宰、講師。また作曲家として、カワイ出版・フィンランドスラソル社などから作品を出版している。近年は、各地の伝統行事を取材し、創作活動を行う。

 

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沖縄のうたによる混声合唱組曲「とぅばらーま」

●沖縄のうたによる混声合唱組曲「とぅばらーま」
作曲:瑞慶覧尚子
出版社:カワイ出版
定価:1,650円 (税込)
声部:SATB
伴奏:アカペラ、ピアノ伴奏混載、ウッドブロック
判型:A4/36頁
ISBN:978-4-7609-4857-4

こんにちは、佐藤拓です。
今回紹介するのは沖縄在住の作曲家・瑞慶覧尚子さんの新譜『とぅばらーま』です。新譜といっても、この作品が初演されたのは2008年のこと。17年の時を経てようやく出版に至ったわけです。
作曲家のキャリアの初期から自身のルーツである沖縄の民謡・古謡を創作の源泉としてきた瑞慶覧さん、この曲集も沖縄各地の民謡を元にしたアレンジですが、いずれも労働とともに歌われた仕事唄です。前書きの中で作曲者はこのように語っています。
「その背景には。過酷で厳しい生活がありました。そのような中に人々は歌う楽しみを見つけ、三線片手に自分たちの歌を歌い続けてきました。昔とは異なりますが、違った意味で厳しい現実社会の今、私たちにもやはり「歌」が必要なのだと、強く感じます。先人たちが「歌うこと」で乗り越えてきたように。」
民謡という音楽が、天から与えられたものではなく、名もなきありふれた人々(“常民”と私は呼びます)の生活感情と労働の身体から湧き起こったことに、私はいつも感動します。作曲者はまさに常民の心と身体の裡を覗き込んで、そこから現代にも美しく響く新鮮な音を紡ぎ出していると感じられます。

全4曲からなり、1曲目にウッドブロック、2、4曲目がピアノ伴奏を必要とします。

1,きーふーぞ(伊江島民謡)
畑仕事の帰りに鎌で鍬の柄を叩きながら男女が歌い交わす歌で、鍬の代わりに木煙草入れ(きーふーぞ)をキセルで叩いて歌ったことからこの名前が付いたとのこと。ウッドブロックが終止単純なリズムを繰り返す上で、シンコペーションに溢れた楽し気な旋律と口三味線のスキャットが絡み合う。

2,雨(あみ)や降いひんな(与那国島民謡)
長雨が続くと作物が育たず人頭税を納められないため、雨が降らないように祈る歌。九州以北ではむしろ雨乞いの歌の方が多いが、亜熱帯気候の南島特有の民謡かもしれない。ピアノ伴奏に乗せた三和音の響きに包まれた、非常にロマンティックなアレンジ。

3,与那国ぬ猫小(まやーぐゎー)(与那国島民謡)
与那国にはネズミ捕りが上手な猫のおかげで出世した猫小伝説というものがあるそうだが、この曲では猫や犬を擬人化して特権階級の役人たちを揶揄している。隠喩や皮肉もまた民謡の特色の一つ。この曲のみ完全なアカペラで、「ヨーヌヨーシュヌハリ・・・」の長いハヤシコトバのリフレインが印象的。跳ねるような付点のリズムで愉快に歌われる。

4,とぅばらーま(八重山民謡)
八重山を代表する恋愛の歌で、とぅばらーまは「愛しい人」という意味。テノールによる息の長い旋律にリードされ、男女が歌い交わしながら展開してゆき、大サビではtuttiのオクターブ&ユニゾンでクライマックスを描く。ちなみに巻末の歌詞には掲載されていなないが、「まくとぅにツィンダーサ」は「本当に可愛らしい」の意味。

巻末には作曲家による各民謡の解説と歌詞の訳も掲載されています。これを読むと、沖縄における歌の伝統が、常に社会や歴史との連関の中にあって、時代と人々の生活を映し出す鏡となっていることを思い知らされます。まさに「歌は世につれ、世は歌につれ」ですね。(佐藤拓)

佐藤 拓(さとう たく)

【筆者プロフィール】
佐藤 拓(さとう たく)
岩手県出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中はグリークラブ学生指揮者を務める。卒業後イタリアに渡りMaria G.Munari女史のもとで声楽を学ぶ。
アンサンブル歌手、合唱指揮者として活動しながら、日本や世界の民謡・民俗歌唱の実践と研究にも取り組んでいる。近年はボイストレーナーとして、自身の考案した「十種発声」を用いた独自の発声指導を行っている。Vocal ensemble 歌譜喜、Salicus Kammerchor、vocalconsort initium等のメンバー。東京稲門グリークラブ、合唱団ガイスマ等の指揮者。常民一座ビッキンダーズ座長、特殊発声合唱団コエダイr.合唱団(Tenores de Tokyo)トレーナー。(公式ウェブサイトhttps://contakus.com/