Paris Rutherford(パリス・ラザフォード)の合唱作品 / 無伴奏混声合唱のための「郡上おどり幻想」(信長貴富 編曲)
世界の合唱作品紹介
海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Paris Rutherford(パリス・ラザフォード)の合唱作品
パリス・ミルトン・ラザフォード三世(Paris Milton Rutherford III、1934年〜2022年)は、アメリカの作曲家、編曲家、教育者であり、ヴォーカル・ジャズの分野で世界的に高く評価されていました。テキサス州ダラス出身の彼は、幼少期からピアノとトロンボーンを学び、若くしてダラス交響楽団で演奏するほどの腕前を持っていました。大学卒業後は、広告音楽、テレビ、映画音楽の作曲や録音技術者として活躍し、プロのジングル歌手のためにアレンジを手がけるようになります。この経験が、ラザフォードのヴォーカル・ジャズへの情熱を育み、後の教育者としての道を切り開くきっかけとなりました。
1970年代にはコロラド大学デンバー校で教鞭をとり、ヴォーカル・ジャズ教育の基礎を築きました。1978年にはノース・テキサス大学(University of North Texas, UNT)に招聘され、同大学のヴォーカル・ジャズ科を創設。30年以上にわたり、同プログラムを率い、UNTジャズ・シンガーズを全米屈指のヴォーカル・ジャズ・グループへと育て上げました。
彼の教育スタイルは、理論と実践のバランスを重視し、学生たちに即戦力となるスキルを身につけさせるものでした。彼の指導を受けた多くの学生が、プロの音楽業界で活躍しています。
2009年にUNTを退職した後も、ラザフォードは地元のコミュニティ・アンサンブル「The New Collection」の指導を続け、音楽活動を精力的に行いました。また、Hal LeonardやUNC Jazz Pressなどから100以上のヴォーカル・ジャズ・アレンジを出版し、教育書『The Vocal Jazz Ensemble』は現在も多くの教育者に使用されています。
ラザフォード氏の編曲は難易度が変われど歌いやすさを重視しており、ヴォーカル・ジャズになれていない人でも取り扱いやすくなっています。そのうち4曲を紹介したいと思います。
1. 「ネイチャー・ボーイ(Nature Boy)」
エデン・アーベズによる作曲、ナット・キング・コールの演奏で有名なこの曲を、ラザフォードはボサノヴァ風にアレンジ。スキャットやソロパートを含み、豊かなハーモニーが特徴です。中〜上級レベルのヴォーカル・ジャズ・グループに最適です。
参考動画:Nature Boy (SATB Choir) - Arranged by Paris Rutherford
https://www.youtube.com/watch?v=IXk6DhINwVg
2. 「イパネマの娘(The Girl from Ipanema)」
作曲:アントニオ・カルロス・ジョビン
ラザフォードのアレンジは、原曲のボサノヴァの雰囲気を保ちつつ、洗練されたハーモニーとリズム感を加えています。SABやSATB編成で歌いやすく、ジャズ初心者にもおすすめです。
参考音源:The Girl from Ipanema (SAB Choir) - Arranged by Paris Rutherford
https://www.youtube.com/watch?v=H4gSHfMGFiI
3. 「バラ色の人生(La Vie en Rose)」
作曲:エディット・ピアフ
フランスの名曲をジャズ・バラードとして再構築したアレンジ。SATB編成で、優雅で感情豊かな表現が可能です。ヴォーカル・ジャズ・アンサンブルにぴったりの一曲です。
参考動画:La Vie en Rose (SATB Choir) - Arranged by Paris Rutherford
https://www.youtube.com/watch?v=xob8Yq2PqAA
4. 「ワン・ノート・サンバ」(アントニオ・カルロス・ジョビン)
陽気なリズムとユニークなメロディが特徴のサンバの名曲。ラザフォードのアレンジはソロパートも含まれており、高校や大学の合唱団にぴったりです。
参考動画:One Note Samba (SAB Choir) - Arranged by Paris Rutherford
https://www.youtube.com/watch?v=rtdfeC7lx68
楽譜購入はパナムジカまでお問い合わせください。(市川恭道)
【筆者プロフィール】
市川恭道(いちかわ やすみち)
関西学院大学卒業。在学中はグリークラブに所属し合唱の基礎を培う。本場でバーバーショップを学ぶため2008年渡米。Masters of HarmonyとThe Westminster Chorusに所属し、2008年、2010年、2019年とバーバーショップ国際大会で優勝。また渡米後、声楽・合唱指揮のプロになることを志し、カリフォルニア州のFullerton College声楽科を卒業。その後、同州Azusa Pacific University(APU)大学院声楽科・指揮科を修了する。APU在籍中はアシスタントとしてOratorio Choir、University Choir and Orchestra、Opera Workshopの指導に携わり主に宗教音楽、オーケストラ指揮、オペラ指揮を学ぶ。現在、Westwood Hills Congregational Church音楽主事、The Westminster Chorus代理指揮者、Los Angeles Men’s Glee Club指揮者としてコーラスの指導にあたり、歌い手としてはLong Beach Camerata Singers、Pacific Choraleに所属する。日本ではアメリカ音楽、Barbershop Harmonyの指導に力をいれ、帰国時には練習指導・講習会を開いている。指揮をDonald Nueun、Dr. John Sutonに、声楽をDr. Katharin Rundus、David Kressに師事。American Choral Directors Association (ACDA)、Choral America、Barbershop Harmony Society (BHS)会員。
日本の合唱作品紹介
指揮者、演奏者などとして幅広く活躍する佐藤拓さん、田中エミさん、坂井威文さん、三好草平さんの4人が、邦人合唱作品の中から新譜を中心におすすめの楽譜をピックアップして紹介します。
●無伴奏混声合唱のための「郡上おどり幻想」
編曲:信長貴富
出版社:カワイ出版
定価:1,980円 (税込)
声部:SATB div.
伴奏:無伴奏
判型:A4/48頁
ISBN:978-4-7609-4852-9
こんにちは、佐藤拓です。
いきなりですが皆さんは"日本三大盆踊り"は御存知でしょうか?盆踊りは日本中に分布していますが、ことに規模が大きく古態を残すものとして秋田の「西馬音内盆踊り」、徳島の「阿波踊り」と岐阜の「郡上おどり」が三大盆踊りと呼ばれています。いずれも江戸時代初期に誕生し、盆踊りの禁令や大戦期を乗り越え400年近い歴史をもっています。
このひとつ「郡上おどり」は、お盆の4日間を徹夜で踊り続ける「徹夜踊り」の慣習が残っていること、シンプルな振付のため地元民に交じって観光客もが踊りに加われる参加型スタイルであることなどから、郡上八幡に毎年数十万人が集う特別な人気を誇る祭りとなっています。
2024年秋の「清流の国ぎふ」文化祭2024の一環として開催された「ひと・むすぶ・こえ 愛と平和を歌う合唱フェスティバル」において、当イベントの音楽監督であった信長貴富さんによって編曲されたのが、今回紹介する『郡上おどり幻想』です。編曲にあたって信長さんは「郡上おどりに携わる方々がこの合唱作品に触れたとき、これは自分たちの文化から派生したものであると感じていただけるよう、祭りの雰囲気から極端に逸脱しないことを編曲の前提とし」、「実存する伝統文化と地続きでありたいという願い」をもっておられたとのこと。クレジットを「作曲」ではなく「編曲」としたのも、そのことへの強いこだわりがあったものと思われます。
現在の郡上おどりでは10曲の囃子唄がありますが、その中から6曲を抜粋して徹夜踊りの一夜を思わせる構成となっています。全曲アカペラ(一部拍子木)で歌われます。
1,古調かわさき
伊勢参りに訪れた民衆が全国に持ち帰って流行らせた「伊勢音頭」を源流とする一曲。上の句を男声が、下の句を女声がユニゾンで歌い交わす、雅びな風流を感じさせるオープニング。
2,かわさき
前曲を元に発展した郡上おどりを代表する一曲。緩やかなテンポ、都節音階(陰施法)による旋律などやはり雅趣にみちている。三味線や太鼓の口唱歌(しょうが)、拍子木と足踏みも加わって原曲に忠実なアレンジ。
3,猫の子
養蚕農家がねずみ除けに飼っていた猫の動きを真似たコミカルな踊り。この編曲では音型パターンを自由に繰り返す高声部と旋律をリレーで歌い継ぐ低声部とが対置され、幻惑的なサウンドとなっている。
4,春駒
かつて馬の産地でもあった郡上。勇ましい馬の姿を模した力強い踊りが特徴。テナーの主旋律に導かれて、馬の蹄の音を思わせる伴奏隊が「ヤサコリャサ」と囃したてる。
5,げんげんばらばら
御殿女中の手毬唄がルーツといわれる優雅な踊り。リズミカルに畳みかけるようなアレンジで、現在の踊りよりもむしろ元の手まり遊びに近い姿を魅せる。
6,まつさか
古くからの伝統で、郡上おどりの最後に歌われると決められた曲。前半はバリトンの主旋律をヴォカリーズによるハーモニーが彩り、後半では女声による音型パターンの繰り返しに包まれて男声と女声ソロが静かに歌い交わす。「郡上の八幡出るときは 雨も降らぬに袖しぼる」という第2曲にも出てきた有名な歌詞で、祭りの終わりを惜しむように静かに消え行って行く。
サラマンカホールでの初演の演奏がYouTubeで公開されています。(合唱団MIWO、指揮:岩本達明)
https://youtu.be/Vp116lEWl9c?si=KdYMuwloiIlNZ-AD
【筆者プロフィール】
佐藤 拓(さとう たく)
岩手県出身。早稲田大学第一文学部卒業。在学中はグリークラブ学生指揮者を務める。卒業後イタリアに渡りMaria G.Munari女史のもとで声楽を学ぶ。
アンサンブル歌手、合唱指揮者として活動しながら、日本や世界の民謡・民俗歌唱の実践と研究にも取り組んでいる。近年はボイストレーナーとして、自身の考案した「十種発声」を用いた独自の発声指導を行っている。Vocal ensemble 歌譜喜、Salicus Kammerchor、vocalconsort initium等のメンバー。東京稲門グリークラブ、合唱団ガイスマ等の指揮者。常民一座ビッキンダーズ座長、特殊発声合唱団コエダイr.合唱団(Tenores de Tokyo)トレーナー。(公式ウェブサイト https://contakus.com/)
