Partita for 8 voices 8つの声のためのパルティータ(Caroline Shaw 作曲)/ 混声合唱組曲「太陽のレクイエム」(田中達也 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Caroline Shaw: Partita for 8 voices 《8つの声のためのパルティータ》

●Caroline Shaw: Partita for 8 voices 《8つの声のためのパルティータ》

Roomful of Teethというグループをご存知でしょうか。

「空間いっぱいの歯」という、あまりにも独特な名前を持つ彼らは、アメリカを拠点に活動する8人組のヴォーカルアンサンブルです。自らを合唱団ではなく「ヴォーカル・バンド」と呼ぶ彼らの活動は実にユニークで、毎年夏にマサチューセッツ現代美術館に集まり、また世界中の伝統歌唱の「師匠」を招聘し、直接、トゥバの喉歌やヨーデル、パンソリ、ジョージア歌唱といった特殊技法を学び取ります。そうして手に入れた多様な声を、現代の音楽言語へと昇華させていくのです。なんとなく、グループ名の由来がわかってくる感じがしますね。

今回ご紹介するCaroline Shaw(キャロライン・ショウ)のPartita for 8 Voices《8つの声のためのパルティータ》も、そういった活動における最大の果実のうちのひとつです。当時、団員の一員でもあった30歳のショウは、この作品でピューリッツァー賞(音楽部門)を史上最年少で受賞し、合唱界のみならず音楽界に大きな衝撃を与えました。合唱作品がコミュニティに閉じず、世界/社会の一番広いところを眼差しているし、またむこうからも眼差されている、というのは、わたしたちにも大いに学ぶべきところがありそうです。

全4楽章はそれぞれ「Allemande」「Sarabande」「Courante」「Passacaglia」とバロック舞曲の題名を冠していて、Partitaという名前のとおり、バロック組曲の形式を模倣して作曲されています。J. S. バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータに感銘を受けた作曲者が、その形式の中に現代の都市生活における騒音、現代美術、そして声という楽器の技法的拡張を取り込んでゆく、という試みの成果です。

組曲の冒頭を飾る「Allemande(アルマンド)」は、パズルのピースを散りばめたような囁き声から始まります。テクストは複数の出典によるもので、アメリカの伝統舞踊・スクエアダンスのコール、現代美術家Sol LeWitt(ソル・ルウィット)によるウォールアートの指示書、そしてT.S.エリオットの《四つの四重奏》から引用された「The detail of the pattern is movement(パターンの細部は動きである)」というフレーズからなります。これらのコラージュは一見カオスのようでありながら、踊りの形式としてのAllemandeを俯瞰し、かつ現在性を取り込んでいく一種の召喚儀式として機能するという一貫性を持って配置されているのです。そしてその中から突然、息を呑むほど美しい和声の響きが立ち現れます。特殊な発声技法によって倍音が強調され、人間の声が時にシンセサイザーのように、時に太古の楽器のように響き渡ります。このシームレスな展開はまさに人間の声にしかできない芸当と言えるでしょう。

何はともあれ、ぜひ、演奏を聴いてみてください。一度耳にすれば、知っていたはずのうたの景色が、少なからず書き換えられるに違いない作品です。(柳嶋耕太)

Roomful of Teethによる演奏
https://www.youtube.com/watch?v=NDVMtnaB28E

第1楽章「Allemande」は、先日筆者が所属するヴォーカルグループ AcappelLaboでも演奏しました。下記で配信を行っています。よろしければこちらもぜひ御覧ください。
https://www.zan-live.com/ja/live/detail/10749

柳嶋 耕太 (やなぎしま こうた)

【筆者プロフィール】
柳嶋 耕太 (やなぎしま こうた)
2011年に渡独。ザール音楽大学指揮科卒業。在学中、ドイツ音楽評議会・指揮者フォーラム研究員に選出、同時にCarus出版より"Bach vocal"賞を授与される。以来、ベルリン放送合唱団をはじめとするドイツ国内各地の著名合唱団を指揮した。2017年秋に完全帰国。vocalconsort initium、室内合唱団vox alius、横浜合唱協会、Chor OBANDESをはじめとする多数の合唱団で常任指揮・音楽監督を務める。合唱指揮をゲオルク・グリュン、指揮を上岡敏之の各氏に師事。

 

日本の合唱作品紹介

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混声合唱組曲「太陽のレクイエム」

●混声合唱組曲「太陽のレクイエム」
作曲:田中達也
作詩:藤森優希
出版社:カワイ出版
定価:1,870円 (税込)
声部:SATB
伴奏:ピアノ
判型:A4/48頁
ISBN:978-4-7609-4871-0

今回ご紹介する『太陽のレクイエム』は、作詩、作曲、演奏のすべてが東京学芸大学関係者の手によって作り上げられた作品です。
作曲者の田中達也さんは同大学の出身かつ、初演団体である東京学芸大学混声合唱団のOB。作詩者の藤森優希さんは現役の4年生。ピアノの前田勝則さんも同大学の出身。指揮の石崎秀和さんは出身は違いますが、現在は同大学で准教授を務めておられます。
現役の学生の詩に作曲されることもレアですが、初演関係者すべてが単独の大学で構成されることはおそらく前例がないのではないかと思います。
田中達也さんにとっても、後輩合唱団のために、後輩の詩に曲をつけるというのは、特別な思い入れのこもるものとなったことでしょう。

Prerulude
組曲中に登場するいくつかのモチーフ・ことばを点在させながら、1曲目へと向かい高まっていきます。ミュージカルにおけるOvertureのように、これから語られる音楽世界を予感させてくれます。

1.朝焼けのレクイエム
Preludeからataccaで演奏されます。前曲でタイムラプス映像のように様々に明るさを変える空が描かれたのに続いて、改めて一日が確かに始まっていきます。夜明けの風や昇りくる朝陽が感じられるようです。

2.真昼のレクイエム
すっかり昇りきった太陽が真上から照り付ける様を、「燦燦」という言葉を全編に貫いて配することで印象的に描き出します。二つの仮名遣いで書かれた詩が時を超えて語りかけてきます。

3.夕焼けのレクイエム
夕焼けの暖かい色に街が、人が、森が、世界が染まってゆきます。終わってゆく日と沈みゆく陽を悼むように「レクイエム」という印象的な言葉が曲を閉じます。

空-Epilogue
作曲者によれば、音楽の導入としてのPreludeに対し、物語の終章としての役割としてEpilogueと綴ったのだそうです。歌詞も含め完全に全編を繰り返し、1回目を無伴奏でゆったりと、2回目はピアノを伴いやや前進して演奏するように書かれています。
(三好草平)

初演の演奏を、東京学芸大学混声合唱団のYouTubeチャンネルにてお聞きいただけます。
https://youtu.be/_Ml1kqtgKOs?si=wB4YdZAKt4rhElCn

三好草平(みよし そうへい)

【筆者プロフィール】
三好草平(みよし そうへい)
1979年埼玉県生まれ。大学卒業に合わせ合唱団を立ち上げ指揮活動を開始。現在、東京・埼玉・富山で十数団体の指揮を務めている。
同世代の作曲家への委嘱や演奏会のプロデュース、ステージマネージャー、司会など合唱に関わる様々な活動を行っているほか、合唱アニメ「TARI TARI」(2012)、アニメ「ヴァチカン奇跡調査官」(2017)、アニメ映画「リズと青い鳥」(2018)、映画「コーヒーが冷めないうちに」(2018)、TVドラマ「トップナイフ」(2020)、TVドラマ「ドクターホワイト」(2022)、アニメ映画「アリスとテレスのまぼろし工場」など多数の作品の音楽制作に協力している。
東京都合唱連盟事務局長。日本合唱指揮者協会会員。アニソン合唱プロジェクト「ChoieL」監修。小さな夜の音楽会 主宰。