Der Jahrkreis Op.5 年環(Hugo Distler 作曲)/ 混声三部コレクション「また一つ星が」(田中達也、根岸宏輔、名田綾子、山下祐加 作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Der Jahrkreis Op.5(年環)

● Der Jahrkreis Op.5(年環)
作曲:Hugo Distler (フーゴ・ディストラー)
出版社: Bärenreiter-Verlag
声部:SAB、SSA
伴奏:ア・カペラ、一部器楽伴奏
言語:ドイツ語

本日は、ドイツの20世紀の作曲家フーゴ・ディストラー(1908-1942)のDer Jahrkreis(年環)という作品をご紹介します。「年環」という日本語は無いと思うのですが、ドイツ語のJahrは「1年、年月」、Kreisは「円、輪」といった意味を持つ言葉で、「年輪」だと木のイメージが強くなってしまうと考えて「年環」と訳すことにしました。
この作品は2声から3声で演奏することができる52曲の小品で構成されているのですが、これらは全曲を通して演奏することを想定されたものではありません。ディストラー自身による序文の中には、これらの曲は教会音楽の実践から生まれたもので、礼拝で使いやすく、児童合唱団や小さい混声合唱団での演奏が想定されていると書かれています。
キリスト教には教会歴というものがあり、キリスト教にとって大切な出来事を思い起こすために1年をいくつかの季節に分けています。クリスマス、待降節(アドベント)、復活祭(イースター)などは、キリスト教に詳しくない方でも聞き馴染みがあるのではないでしょうか。「年環」の目次を見ると、52の小品がそれぞれ教会歴におけるどの季節に歌われるものかが示されています。
このメールが配信される12/1は、キリストの誕生を待ち侘びる​​待降節(アドベント)の季節にあたるのですが、この時期に歌われる小品には、救い主の到来を待ち望む想いが歌われる「O Heiland, reiß die Himmel auf(救い主よ、天を裂き開け)」、神の到来に向けて準備をするよう民に促す「Macht hoch die Tür(戸を高く掲げよ)」、イエスを身籠ったマリアが茨の森を歩いた際にバラが咲いた奇跡を歌った「Maria durch ein' Dornwald ging(マリアは茨の森を行った)」など、宗教作品がお好きな方はどこかで出会ったことがあるのではないかと思われるテキストが並んでいます。
私はその中でも特に「Maria durch ein' Dornwald ging(マリアは茨の森を行った)」という作品が好きなのですが、この曲のメロディーは、ドイツで古くから民謡のように歌い継がれているもので、耳に残りやすい美しい旋律に、ディストラーがシンプルながらも意外性のある和声で美しいアレンジを加えています。以前ウィーンの合唱団でこの曲を練習した際に、年配の方々が「最近の若い子はこのメロディーを知らないのよ」と嘆いていたことを思い出します。民謡の継承は、どこの国でも難しくなっているのですね。
この曲集に含まれている曲は、いずれも2声から3声(ソプラノ・アルト、もしくはソプラノ・アルト・男声)の編成ですが、男声が歌えるように移調をすることや、楽器によるサポートを入れることもディストラー自身が認めており、フレキシブルに演奏することが可能です。私が指揮をしているHugo Distler Vokalensemble(フーゴ・ディストラー・ヴォカールアンサルンブル)では、教会歴に合わせてこの曲集から毎月数曲ずつ歌うことを続けています。ぜひみなさんの合唱団でも気軽に教会音楽に触れられる機会として、この作品を手に取ってみてください。(谷郁)

Maria durch ein Dornwald ging 演奏: https://www.youtube.com/watch?v=AEpy2H8YggM

楽譜:楽譜はパナムジカでお求めいただけます。

谷 郁 (たに かおる)

【筆者プロフィール】
谷 郁 (たに かおる)
国立音楽大学声楽科卒業及びグラーツ国立音楽大学大学院合唱指揮科修了。これまでに合唱指揮を花井哲郎、エルヴィン・オルトナー、ヨハネス・プリンツの各氏に師事。
Tokyo Cantatにおける第5回及び第6回若い指揮者のための合唱指揮コンクールいずれも第2位。国際合唱指揮コンクールTowards Polyphony(ポーランド)で高い評価を受け、NFM Choirにより客演指揮に招請された。
vocalconsort initium、Hugo Distler Vokalensemble、Tokyo Bay Youth Choir指揮者。他指導合唱団多数。

 

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混声三部コレクション「また一つ星が」

●混声三部コレクション「また一つ星が」
作曲:田中達也、根岸宏輔、名田綾子、山下祐加
出版社:カワイ出版
定価:1,980円 (税込)
声部:SAB
伴奏:ピアノ
判型:A4/44頁
ISBN:978-4-7609-4860-4

近年、丸みを帯びたデザインの別表紙で"男性が少なくても音楽的にも豊かで実りある混声三部作品を"というコンセプトの混声三部シリーズを出版しているカワイ出版ですが、新たに同社の委嘱を中心に据えた新シリーズ"混声三部コレクション"がスタートしました。「混声三部の新曲開発」「名曲の混声三部版への編曲」「旧作の混声三部の紹介」を軸に、4~5曲を集めたミニアルバムのような混声三部曲集で、既刊は2冊ですが、現在決まっているだけでもさらに3冊、合計5冊の発刊が予定されています。
その第1弾が今回ご紹介する『また一つ星が』です。現在幅広く活躍をする若手人気作曲家4名の作品が収録されています。

・レモンイエローの夏
田中達也さんの代表曲といえる一曲。オリジナルは無伴奏混声四部作品として作曲され、2012年の東京都合唱祭に於いて私が指揮する合唱団わをんとともに初演しました。その後、2015年に曲集となり出版。さらにピアノ付き女声版、無伴奏女声版、ピアノ付き混声版、と様々な編成で歌われ、愛される曲となっています。
様々な世代で歌いやすい混声三部版が誕生したことで、今後ますます広く歌われていくことでしょう。
さわやかさな8ビートポップスタイルが心地よい一曲です。

・また一つ星が
今回の出版のために根岸宏輔さんによって書き下ろされた作品。以前のシリーズでも多くの作品が混声四部や女声合唱など他の編成からの編曲でしたが、こうして混声三部という編成を存分に生かすためにオリジナルで作曲されるのはとても重要なことだと思います。
前奏を伴わない女声のユニゾンから主題となる旋律が歌われる。時に繊細に、時に力強く、調性を変えながら、合唱とピアノで何度も奏でられる主題が印象的に美しく響きます。

・もしも
カワイ出版の委嘱による新作組曲のコンサートThe Premiere Vol.3によって2014年に初演された『いのち』の終曲。この組曲が名田さんにとって初めての合唱作品だったそうです。
「もしもいま いなくなるとしたら」と、ハッとさせられるような呼びかけが五度に亘って繰り返され、最後に「あなたに会えてよかった」と結ぶ詩が、そのまま心に沁み入るような旋律によって歌われます。連の間に挟まれる短い間奏はピアニストとして多くの合唱団との共演をしている名田さんらしい流麗さと華やかさを湛えています。
アンコールなどステージ、演奏会の締めに配置すると特にグッとくる作品です。

・燕の歌
岸信介さんの指揮する合唱団の集合体による舫の会が実施する演奏会は、1983年以来およそ3年に一度のペースでこれまでに14回が開催されています。第3回以降は毎回組曲の委嘱が行われ、これまでに43もの組曲がこの演奏会から生み出され、その多くが出版され、全国各地で愛唱されています。混声合唱組曲『燕の歌』は2016年の第12回演奏会に於いて委嘱・初演されました。
表題曲である「燕の歌」は組曲の最後に配され、映画に於けるエンドロールのようにフィナーレ、まとめとして作曲されました。
混声三部版は四部版からの単なる落とし込みではなく、旋律の割り振りを大胆に入れ替えて新たな響きを生み出しています。この曲集では唯一、オプション的なdiv.もなく完全な三部合唱として書かれているのも特筆すべき点でしょう。(三好草平)

三好草平(みよし そうへい)

【筆者プロフィール】
三好草平(みよし そうへい)
1979年埼玉県生まれ。大学卒業に合わせ合唱団を立ち上げ指揮活動を開始。現在、東京・埼玉・富山で十数団体の指揮を務めている。
同世代の作曲家への委嘱や演奏会のプロデュース、ステージマネージャー、司会など合唱に関わる様々な活動を行っているほか、合唱アニメ「TARI TARI」(2012)、アニメ「ヴァチカン奇跡調査官」(2017)、アニメ映画「リズと青い鳥」(2018)、映画「コーヒーが冷めないうちに」(2018)、TVドラマ「トップナイフ」(2020)、TVドラマ「ドクターホワイト」(2022)、アニメ映画「アリスとテレスのまぼろし工場」など多数の作品の音楽制作に協力している。
東京都合唱連盟事務局長。日本合唱指揮者協会会員。アニソン合唱プロジェクト「ChoieL」監修。小さな夜の音楽会 主宰。