Aizej, lietiņ! 雨よ、止め!(Ilona Rupaine 作曲)/ 無伴奏混声合唱《星めぐりの歌》(宮沢賢治 作詞・作曲)

世界の合唱作品紹介

海外で合唱指揮を学び活躍中の柳嶋耕太さん、谷郁さん、堅田優衣さん、市川恭道さん、山﨑志野さんの5人が数ある海外の合唱作品の中から、日本でまだあまり知られていない名曲を中心にご紹介していきます。
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Aizej, lietiņ!(雨よ、止め!)

● Aizej, lietiņ!(雨よ、止め!)
作曲:Ilona Rupaine (イロアナ・ルパイネ)
声部:SATB div. +S solo
伴奏:無伴奏
言語:ラトビア語
時間:2分30秒

 日本は真夏の盛りの頃、ラトビアはすっかり秋に突入し、ヒーターをつけたり冬のジャケットをタンスから取り出し羽織るほどの寒さが続いています。ラトビアの秋は、突然の通り雨がよく降ってきます。今日もそんな一場面に出くわしたので、ラトビアの雨にまつわる民謡を用いたイロアナ・ルパイネ作曲によるアカペラ合唱作品を紹介します。

 「Aizej, lietiņ!」は、直訳すると、雨を立ち去れ!。牧夫による民謡で、その名の通り、雨がおさまるよう、そして太陽の光を与えてくれるよう願う歌です。この作品に用いられる歌詞は、5行のみ用いられており、作品は、その詩を描写するように、各パートで繰り広げられるオスティナートにより表現されます。四分の三拍子で、雨がぽつぽつと降り始めるかのようなアルトの低音でつぶやくような2小節の旋律、そこから大き目の雨粒が落ちるかのようなテノールの長めの音価で歌われる節が加わり、そこへ第二ソプラノによる動きをもつ旋律が重なっていきます。そこへ四分の四拍子で、自然に高らかに祈りをあげるようなソプラノのソロが登場し、「雨よ、止め!大きな防波堤の向こうから、太陽よ、昇れ!そして光を照らしてくれ!」と民謡を思わせる旋律を歌います。ソプラノ、アルト、テノールのオスティナートが続く中、雨の激しさを見せるかのようにバスが低音で「ザーザーと、ゴーゴーと」と加わりソプラノのソロもソリとなり同様の旋律をうたい、景色は大雨を迎えます。オスティナーとによって背景を描くように歌われるパートは四分の三拍子で歌われ、ソロによって歌われる民謡的な旋律は四分の四拍子で登場し、この旋律は徐々にアルト、テノール、バスの順で、カノンで加わっていき、雨の描写から人々の祈りの強さが引き立てられ、高らかに旋律を歌う女声、嵐のような男声の伴奏でクライマックスをむかえ、作品は少しずつ前半と同様のオスティナーとの旋律が聞こえ始めてきます。終盤に向かって、ソプラノとアルトは囁き声でのアレアトリカへと移行し、作品は雨が収まっていくようにテノールとバスが静かに消えていきます。

 たったの2分30秒でありながら、通り雨と太陽への祈りを映し出す作品です。ラトビアのアマチュア合唱団のレパートリーとしてもよく歌われる作品のひとつでもあります。何より、オスティナートが効果的に使われているので、登場する言葉もすくないにも関わらず、ラトビアの自然の風景を感じられます。ラトビア語を歌ってみたいな、という合唱団にもおすすめの作品です。(山﨑志野)

[楽譜] https://www.musicabaltica.com/914.html
※楽譜はパナムジカで取り寄せ可能です。

山﨑 志野 (やまさき しの)

【筆者プロフィール】
山﨑 志野 (やまさき しの)
島根大学教育学部音楽教育専攻卒業後、2017年よりラトビアのヤーゼプス・ヴィートルス・ラトビア音楽院合唱指揮科で学び、学士課程および修士課程合唱指揮科を修了。2022年にはストックホルム王立音楽大学の修士課程合唱指揮科で学ぶ。2023年9月よりラトビア放送合唱団のアルト、またラトビア大学混声合唱団Dziesmuvaraの指揮者として活動する。第2回国際合唱指揮者コンクールAEGIS CARMINIS(スロベニア)では総合第2位、第8回若い指揮者のための合唱指揮コンクールでは総合2位およびオーディエンス賞を受賞。合唱指揮を松原千振、フリェデリック・マルンベリ、アンドリス・ヴェイスマニス各氏に師事。

 

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無伴奏混声合唱《星めぐりの歌》

●無伴奏混声合唱《星めぐりの歌》
作詞・作曲:宮沢賢治
編曲:三宅悠太
出版社:カワイ出版
価格:660円(税込)
声部:SATB
伴奏:無伴奏
時間:約4分
判型:A4判・8頁
ISBN:978-4-7609-4070-7

 岩手県出身の詩人、宮沢賢治が自身の作品『双子の星』『銀河鉄道の夜』の劇中歌として使用した「星めぐりの歌」。なんと賢治自身が作曲まで行なっています。賢治の故郷・花巻では新幹線の発車メロディに使用されたり、東京2020オリンピックの閉会式で歌われたりするなど、その素朴なメロディは時代を超えて愛され続けています。
 これまでも何人かの作曲家が合唱に編曲してきました。林光(《岩手軽便鉄道の一月》収録)、青島広志(《甦った歌 完結編》収録)や、曲中の部分的な使用として、信長貴富(《銀河鉄道の夜》)、千原英喜(〈さそりの火―星めぐりの歌〉〜《銀河鉄道の夜》)があります。また詩のみを使用し作曲家オリジナルのメロディを創作した例として、鈴木輝昭(《イーハトーヴ組曲》収録)、瑞木薫(『混声合唱セレクション1「星めぐりの歌」』収録)もあります。合唱ではありませんが、冨田勲の《イーハトーヴ交響曲》では初音ミクをソリストとして「星めぐりの歌」が歌われます。
 そうした名だたる作曲家が編曲・作曲してきた「星めぐりの歌」に、筆者が知る限り一番最近仲間入りをしたのが三宅悠太編曲のもの。初演は2021年1月10日に岩手県民会館で行なわれた「ハルモニア・アンサンブルが贈る〜青少年のための芸術鑑賞会」においてでした。一部の地域に第二次緊急事態宣言が出ていた時節柄、客席は定員の4分の1を上限とし、前後左右を開けて座るという形の公演だったようです(もはやこういった対策の話も遠い昔のようですね……)。初演を聴いた方はそう多くはないでしょうが、harmonia ensembleのYouTubeに初演音源がアップロードされています
https://www.youtube.com/watch?v=jU7gCbAgJ3M)。
 2024年には無伴奏混声四部合唱をもとにしたピアノ付き混声三部合唱版やピアノ付き斉唱版がそれぞれクラス合唱曲集や高校の音楽の教科書に掲載されるなどして、2025年8月にようやく無伴奏混声四部合唱版がカワイ出版からピースとして刊行されました。出版にあたりコーダ部分には改訂が加えられました。
 冒頭はハミングが分散和音風に星の輝きを表すなか、ソプラノソロがオリジナルのメロディをシンプルに歌います。短い接続部を挟んだあとは、ウォーキング・ベースのように動くベースラインのなかでテノールパートが主旋律を担当します。遠い調同士を結ぶ橋渡しをしたあとにテノールソロが登場し、ラストの全員で歌詞を歌う場面へ盛り立てます。ラストは夜空の星に吸い込まれるように冒頭の音へと収斂していきます。
 盛岡で開催された第13回JCAユースクワイアにおいて、アシスタントコンダクターを務めた筆者がアンコールとして選曲したのはこの曲でした。ソリストは岩手出身のメンバー6人に割り振っています。全日本合唱連盟のYouTubeに動画がアップロードされていますのでよろしければご覧ください
https://www.youtube.com/watch?v=2Yne85qcS_8)。
(坂井威文)

坂井 威文(さかい たかふみ)

【筆者プロフィール】
坂井 威文(さかい たかふみ)
1988年、大阪府堺市に生まれる。近畿大学文化会グリークラブで3年間学生指揮者を務める。大阪音楽大学ミュージックコミュニケーション専攻卒業、同大学院音楽学研究室修了。大学卒業時に優秀賞受賞。これまでに第13回JCAユースクワイアアシスタントコンダクター、リトアニアでの演奏などを経験。
現在、大阪などで13団体の合唱団の指揮・指導を行なっている。大阪府合唱連盟理事・関西合唱連盟主事。宝塚国際室内合唱コンクール委員会理事。
ウェブ上では多田武彦、信長貴富、鈴木輝昭、千原英喜、石若雅弥の各氏の作品を一覧化するWikiページの作成・管理を行なっている。